<意外と根深い、選手とジンクスの関係>
ジンクスって、けっこう厄介だ。験担ぎのほうならまだしも、不吉な方にとらわれ過ぎるのは、良くない。小田孔明は、ツアー通算6勝とも逃げ切りVで、逆転優勝をまだ経験したことがない。そのため「1打でもリードしていたら勝てる」という自信を持つ分にはいいが、「1打でもリードされたら絶対に勝てない」との思い込みもあっていつまでたってもそのパターンから抜け出せないでいる。
「ジンクスは破るためにある」と、周囲に言われて「そうですね」と自覚していながらも、先週は新規トーナメントの「HEIWA・PGM CHAMPIONSHIP in 霞ヶ浦」でもやっぱり、4打差の2位から勝てなかったのは、自分に逆転優勝はありえないと、かたくなに思い込んでしまっているからではないか。
きっと、自ら暗示にかけた呪縛から逃れた時に、人はようやく一皮剥けることが出来る。
マイナビABCチャンピオンシップでツアー通算11勝目をあげた池田がいい例だ。初出場の2010年に20位タイにつけたあとは、2年連続で背筋痛による棄権を余儀なくされたという経緯と、「グリーンが俺には合わない」という思い込みから、「コースが苦手」と言い続けてきた。「ツアーで、一番嫌いなんだ」としかめ面をしていたコースで、欲しくてたまらなかった今季1勝は訪れた。
選手会長就任後の初優勝という安堵と喜びから解き放たれた池田は泣きながら、「今週はどうせ予選落ちだから、服も2日分でいいってマネージャーに言ったんです」と、明かした。
いや、それはプロ困ります。一応、4日分お願いします、と言われて渋々用意したものの、気合いもまったく入っていなくて、勝負服の紫のウェアすらスーツケースに入れなかったという有り様だった。
だから最終日は、可愛らしいピンク色の服。優勝インタビューで泣きじゃくりながら、「どうです、みなさん。ピンク色もたまには似合うでしょう?」などと強がりの泣き笑いも、声が震えていていつもの迫力はゼロ。
しかし弱みを全部さらけ出して不安やプレッシャーと格闘する様は、ファンに新しい顔を見せる勝利となった。「本当にこのコースは大っ嫌いだったんです」と最後の表彰式でも本音は包み隠さず、「でも、これで大好きになりました」と、震える声で言った。そして翌週は、今度こそ最終日に紫のウェアで2週連続Vをかけて優勝争い。快挙達成とはいかなかったが苦手をひとつ克服して、ジンクスを打ち破った池田は、これできっとまたさらに強くなる。