<“石松”だけじゃない! 男子ツアーに出現した新たなライバル相関図>
一夜にして、劇的に運命が変わる瞬間を味わう選手がいる。今年はダントツで、小平智だろう。プロ3年目のツアー初優勝が、5年シードのメジャー戦。「日本ゴルフツアー選手権 Shishido Hills」は、そればかりか世界ゴルフ選手権のブリヂストン招待の出場権もついてくる。
また、折しも全英オープンの日本予選のまっただ中で、ダントツのランク1位を走る松山英樹に次いで一気に2位浮上。しかし松山はすでに3月のアジア予選で“切符”を持っていたから、小平がその最上位選手として、かの地に赴くことになった。
この間、わずか半月足らずに起きた出来事である。勝った翌日から、超多忙の日々となった。なんと言っても、取材の申し込みの数がハンパではない。依頼の電話がひっきりなしに入る。勝った次の試合のミズノオープンでは日大の大先輩の片山晋呉と予選ラウンドを回ったが、小平が何も言わないうちから、片山は同情してくれた。
「勝ったら、大変だろう?」。
「本当に、優勝したらこうも変わるもんかと」。取材の対応に追われていると話したら、「そうなんだよ、何が大変って、それが一番大変なんだよ」と片山は言った。
試合中は、良くても悪くても、追いかけられる。1日に2個のダブルボギーを打っても、65で回った日でも報道陣に囲まれる。
練習ラウンドでも大忙しだ。レッスン取材をはじめ、小平が生まれてからこれまでを詳細に追うという企画のインタビューなどそれぞれ別の媒体に、何度も何度も同じことを答えなければいけない。しかもどれもそれなりの時間が必要で、その合間をぬって練習もしなければいけない。
それに加えてスポンサーや、お世話になった方々への挨拶回りに、渡英の準備と休むヒマもないまま、来週には初のメジャー舞台を迎えることになるが、それこそ嬉しい悲鳴で、やにわの取材攻勢も、誰もが味わえることでもない。
人生の転換期を機にかえって不振に陥る選手も少なくない中で、そんなめまぐるしい毎日にも、小平はどこかのほほんと、自分を見失うこともなく、先週のセガサミーカップでは、3日目に4位タイに浮上して、優勝争いにも加わった。特に、その週はジュニア時代からの大親友の薗田峻輔が、左膝の半月板の損傷から復帰4試合目で通算2勝目をあげた。
その前夜の席で、「俺も明日、5つ伸ばせば分からない」と宣戦布告したのが小平だ。「おい、なんで俺が伸ばせない前提なんだよ」と、薗田も負けてはいなかった。「今週も毎晩、小平と一緒にご飯を食べましたけど、こいつには絶対に負けないと思っていました」とは薗田。そんなことを遠慮なく言い合える仲間がいるなんて、とても素敵だ。石川遼と松山英樹だけではない。薗田峻輔と小平智。新たに出現したライバル相関図がこれらかツアーの中盤戦を盛り上げてくれそうだ。