<ゴルフ界の健さん!? 河井博大が目指すもの>
<ゴルフ界の健さん!? 河井博大が目指すもの>
長かった下積み時代は、無口で無骨な選手という印象があった。たとえるならば、高倉健さんのイメージだ。「自分、不器用ですから」という名台詞が、この選手にもピッタリとハマる。
めったに笑顔を見せることもなかったし、たまに上位に来た際にも報道陣に囲まれるや「勘弁してください。取材を受けると自分、すぐにダメになるもんで」などと言いながら、じりじりと後ずさりしていくタイプだった。
師匠の田中秀道にとことん忠節を尽くすといった人情味の厚さや、礼儀の正しさは以前からだったがその分、少々取っつきにくい雰囲気はあったのだ。
それが、5月の日本プロで、プロ16年目の初優勝をあげてからというもの、がらりと変わった。まず、口べたな選手というこちらの思い込みは、まったくのハズレであった。
トークがめっぽう面白いのである。
当意即妙な受け答えは、なんといっても間(ま)がいい。
神妙な顔で自らの不遇の時代を語っていたかと思うと、ふいにいたずら坊主のような笑みを浮かべて、自虐ギャグやオヤジギャグを差し込んでくる。
ここでその詳細を、うまく表現出来ないのが申し訳ないのだが、とにかく笑わせてくれるのである。
「河井選手って、こんなに面白い選手だったんだ…」というのが、その場に居合わせた報道陣の一致した意見であった。
まして、初優勝のあともたびたび優勝争いに絡むなど快進撃は続き、そんな河井の評判はうなぎ登りに上がった。時折、広島弁もポロリと飛び出す軽妙な話術はしかし、酸いも甘いもかみ分けた38歳ならではの含蓄もあって、聞く者を飽きさせない。
近ごろでは、河井に話を聞きに行くのを楽しみにしている報道陣も多くて、まだシーズンは半分も過ぎていないが、今年もっともブレークした選手と言っても早すぎではないと思う。先の日韓対抗戦でも、藤田寛之に次ぐ最年長メンバーながら、「団体戦は初体験。みなさんにアドバイスを頂きながら頑張ります」と、どこまでも初々しく、また、たまに見せるとぼけた表情や、ひょうきんな物言いなどがチームの良いカンフル剤となって、若い代表選手たちにも好評だった。
40歳を目前にして、一気にファンを増やしてしまった感じのある河井だが、謙虚な物言いはあいかわらず。「自分にスター性はまったくありませんから」と健さんばりの謙遜で、「これからも、そうなる要素は微塵もない」。
しかしそんな自分だからこそ、「表現出来ることがある」とも考えている。
「僕には、苦労人としてのスター性はあるのかもしれない」と、笑う。
どん底に落ちても歯を食いしばり、逆境にも負けず、努力に努力を重ねてようやく花を咲かせた。そんな河井のサクセスストーリーは、見る者に勇気と感動を与えた。
「そういう役割ならば、僕にも出来る」。
先週は39歳にして、初のメジャー舞台も踏んだ。日本予選ランキングの1位で権利を手にした全英オープンは渡英前に、河井はこう力強く言ったものだ。
「ボロボロになっても最後の最後まで、戦い抜く姿を見せたい」。
リンクスコースにめった打ちされることも覚悟の上で、「頑張ってきます」と勇んで旅立った河井は、通算15オーバーを打って無念の予選落ちに「自分のスイングをさせてもらえなかった。すごく悔しい!」。
さらに「来年も、また来たい」。
跳ね返されても、打ちのめされても、傷だらけでも、また向かっていかずにはいられない。苦労人の星が、世界最古のメジャーにリベンジを誓った。