加瀬秀樹 8年ぶりの優勝!/サントリーオープン
「人生は、自分の力で切り拓いていくもの」
たとえばラウンド中にもかかわらず、他の選手を撮っているカメラマンの「視界を遮ってしまった」と言って、わざわざ詫びに行くような人の良さが加瀬にはある。
「あえて、優勝を意識しない」のが、プロ22年間、続けてきたプレースタイル。「良いゴルフさえしていれば、あとは運がついてくる。その結果、勝てればいいんじゃないか?」。
優しさと、生来の温厚な性格がこの8年間の活躍を、阻んできたのか・・・。
「そんな自分をすべて変えてみよう」と、従来の殻をうち破る決意をしたのは昨シーズン。
練習仲間の宮瀬博文、丸山大輔、室田淳が賞金ランク8、9、10位と揃ってトップ10入り。同ランク32位で一人取り残された加瀬は「なんとかみんなに追いつきたい」。復活にむけて、なりふりかまわず取り組む覚悟をした。
昨年5月には見栄も外聞も捨てて長尺パターを握り、今季は初めてのコーチ契約。井上透氏とタッグを組んで、長期計画のスイング改造にも踏み切った。
その甲斐あって、今年7月の「サトウ食品NST新潟オープン」から、たて続けの優勝争い。復活の足音は、もうそこまで聞こえていた。
そして迎えた今週の「サントリーオープン」。首位タイで並んだ前日3日目に加瀬はとうとう「最後の壁」を打ち破る決心をする。
「明日はこれまでやったこともないプレースタイル。自分が勝つ、と思ってやろう」。
本当は「有言実行」など、苦手だった。だが、その一方で「あと足りないのは気持ちだけ」ということも、自分がいちばんよくわかっていた。この8年間、幾度も味わってきた苦い思い。何度も優勝争いに絡みながらも、勝てないまま尻すぼみに終わり、ツアー3勝に甘んじている自分。
「またいつものようにこのまましぼんでしまうのか?それとも再び花を咲かすのか・・・。今回は自分と、自分を支えてくれる人を信じて、勝ちに行こうと思ったんです」。
今回は、生まれて初めて「狙って勝った」。このツアー通算4勝目が教えてくれた教訓は「人生は、自分の力で切り拓いていくもの」。
44歳にして、生き方を変えた父。総武の夕焼け空の下、息子・哲弘君がまぶしそうにつぶやく。「パパ、すごいよ、かっこいいよ!」。
「前に見た優勝(1996年日経カップ)よりも、感動しました」と、妻・文子さんは言う。
家族からの賞賛の言葉は、40歳を過ぎてなお「進化すること」を恐れなかった父への、最高のご褒美だった。