ツアープレーヤーたちのおしどり夫婦<小田龍一>
勝って、これだけ恐縮している選手は見たことがない。「おめでとう」と言われてぺこぺこ。「これからも頑張って」と言われてぺこぺこ。「応援しています」と言われてぺこぺこ・・・。 それが、今年の日本オープンのチャンピオンなのだ。しかも、勝ち方が最高に格好良かった。
今野康晴とあの石川遼とのプレーオフを制し、JGTOに届く選手へのファンメールにも、「あれでファンになりました」という内容が一気に増えた。プロ9年目は劇的なツアー初優勝をあげたのだから、もっと堂々としていてもいいようなものなのだが、性格がそれを許さない。
とにかく、目立つことが大嫌い。
「練習場でもわざわざ隅っこの座席を選んで打つような人間が、いきなりこんなに注目されてしまっていいわけがない。恐縮してばっかりで・・・」と、翌週のブリヂストンオープンは、丸山茂樹と片山晋呉というスター選手2人の組に放り込まれて180センチの身をいっそう縮めてまたぺこぺこと頭を下げて歩く始末だ。
2人にも負けない大きな声援を受けながらのラウンドにも「出来れば、みなさんに早く忘れて欲しい・・・。2年ぐらい早送りしてもらいたいくらいです」と、居心地悪そうにしていたものだ。
そんな選手だから、殺到する取材依頼にも、ただ戸惑うばかりだ。
しかもその手は、妻の優子さんにまで及んだ。
というか、むしろ優子さんのほうに、より大きなスポットライトが当たり、全国放送のテレビ局から奥さん単独での出演依頼が舞い込んだのだ。
2003年に結婚してからというもの、どんな小さな試合でも、夫が出場するとあらば会場に駆けつけ、全ホールついて歩くという献身ぶりに加えて、最終日には8番で夫のボールが優子さんの肩に当たってフェアウェイに跳ね返り、さらにそのホールでチップインバーディを奪うというシーンが大きな反響を呼び、「体を張って夫の優勝を支えた妻」として注目を集めたのだ。
これには夫も、ちょっぴりむくれ顔で「えっ、俺じゃなくて?」と釈然としない表情だったが妻のほうも、夫に負けず劣らず人前に出るのが大の苦手だ。
「申し訳なかったんですけど、お断りしちゃいました」と、優子さん。
実は、小田夫人のことは、結婚した当初から話題になっており、何度も小田との2ショット写真をお願いしてきたのだが、「私なんか、出る幕ではないので」と、再三、断られてきた。それでもひつこく食い下がると、「じゃあ、夫が初優勝したときには必ず…」と、言ってくれていたのだ。
表彰式の際には大ギャラリーをかき分けて、必死に優子さんを捜索したのだが見つからず、今回もダメなのかと諦めていると、すっかりひとけの消えたクラブハウスに忽然と現れた優子さんは「さっきまで大泣きしていて、目が腫れてるんです」と、恥ずかしそうに、それでも「前からの約束でしたもんね」と言って、撮影に応じてくれた。
2人の写真は、ツアーを主管するJGTOのホームページでも、紹介させてもらった。
ファンの中にも、常に夫について歩く優子さんの存在を、ホームページの記事などで知っている人がけっこういて、「ようやくお顔が見れました」と言った、祝福の声がたくさん寄せられたものだ。
そんな優子さんも、勝ったあともやはり夫に負けず劣らずの腰の低さで、翌週のブリヂストンオープンでは、5位タイに浮上した2日目に記者が声をかけたときに、たまたま他の用事に気を取られていて、挨拶もそこそこに立ち去ったことを気にかけていたようで、翌朝のスタートで夫はティショットを打ったあとに、わざわざその記者のほうに寄ってきて、「昨日、お話出来なかったことを、優子が気にしていました。ごめんなさい、と」と、伝言してくれる気の遣いようだった。
そんな2人だから、こちらもつい応援したくなってしまう。人柄を知っているからこそなおのこと、心からの拍手を贈りたくなってしまうのだ。
でも2人のことだから、そんなことを言ったらまた恐縮してしまうのだろうか。
「そんなふうに言われるほどの夫婦じゃないんです」とかなんとか、揃って手を振りながら・・・。