ツアープレーヤーたちの試練<矢野東>
そろそろ、傷も癒えたころだろうか。矢野が自身のブログで「ここ4、5年で最悪の出来事があった」と、打ち明けたのは今年6月。たとえば、ゴルフを始めてまだ日の浅い女性グループ4人が初めてトーナメント会場に足を運んだとしよう。その帰り道で話題になるのは、約90%の割合で矢野のことだといっていいだろう。
4人のうち3人が口を揃える。「私、矢野のファンになっちゃった」。会場に行くまでは、「プロゴルファーって、ジャンボさんくらいしか知らな~い」などと言っていた女の子たちがみな、矢野を見た瞬間に目をハート型にして、にわか追っかけを始めるというのは、何も大げさな話ではない。
それほどの色男がある日「僕も普通の男の子なんです」と日記に赤裸々とつづったものだから、ファンの間にちょっとした衝撃が走ったものだ。
いったい何がその身に降りかかったのか。そのコメントであらかた察しもつこうというものだが、なにせプライベートなこと。ここでの明言は避けることにするが、特にそのときの精神面がもろにプレーに現れるのがゴルフだ。
しかし、勝負の世界ではそんな心の傷さえ言い訳にはできず、常に無心でコースに向き合えることが理想だが選手たちも生身の人間だ。悩みや苦悩を抱えたまま、試合に臨まざるを得ない場面も多いことだろう。皆どうやって乗り越えているのか。
矢野自身も「正直、ゴルフどころじゃない。全然集中できない」と、口では言ったがそれでも、これまでに培われてきた戦う男の本能は枯れていなかった。心の痛みが、はからずも矢野をこれまで以上に激しいトレーニングに向かわせたのである。頭をからっぽにして「ひたすら走り続けた」と、矢野はいう。「おかげで、体だけは十分に鍛えられましたよ」と、苦笑したものだ。
「心の傷は、念願のツアー2勝目で晴らさないとね」と、報道陣に水を向けられるとプルプルと首を振り、「いやあ、今回はいくらゴルフで結果を出してもダメでしょう。ショックの種類が、全然別物ですからねえ」と、ため息をついていたものだが、オープンウィークの8月12日に行われた地元開催の地区競技「群馬県オープン」でみごと優勝できたのも、つらいときこそ自分にムチ打った賜物か。
いよいよツアーも、今週の「KBCオーガスタ」から後半戦に突入する。あれから3ヵ月ほどが経ち、そろそろ心の痛手からも立ち直り、ますます男っぷりをあげた矢野のツアー復活Vならば、女性ファンの熱い視線もいっそう集まるに違いない。