11年ぶりに勝つということ
「トラベラーズ選手権」でチェズ・リービー選手(米国)が11年ぶりに優勝を果たしました。
今季「ザ・RSMクラシック」では、チャールズ・ハウエルIII選手(米国)が同じく、11年ぶりに優勝を果たし、試合後の会見で歓喜して涙を流しましたが、リービー選手は清々しく手を上げる程度の、どちらかというと大人しい反応を見せました。
もともと派手なパフォーマンスをしたり、感情を大きく表に出す選手ではありませんが、11年間という歳月をかみしめるには、あまりにも淡々としていてクールな態度。なぜ?と思われた人も多いと思いますが、その答えは彼が歩んできたプロ人生を振り返ればおのずと見えてくるかもしれません。
彼はアリゾナ州立大というゴルフの名門で腕を磨き、2001年「全米アマチュア パブリックリンクスチャンピオンシップ」で優勝したことで、翌年の「マスターズ」に大学在学中に出場します。当時、弱冠19歳。強い学生の代表格として必ず名前が挙がる逸材でした。
大学卒業後、04年にプロ転向し、ようやく芽が出始めたのが08年シーズン。この年に「RBCカナディアンオープン」で優勝し、翌年に2度目の「マスターズ」出場。ただ、それ以外はなかなか結果が残せず、10年に膝前十字靭帯、半月板を損傷するという重傷を負い、8カ月ツアーを離脱。その後徐々にQスクール(米下部ツアー)などで活躍を見せ、レギュラーツアーにも復帰しますが、14年に手首の大ケガで再び長期離脱を余儀なくされてしまうのです。
彼はもともとそれほど飛ぶほうではなく、フェアウェイキープ率(75.1%/6月25日時点・米男子ツアー1位)が物語るように、ショットの安定感で勝負するタイプ。堅実なプレースタイルとは裏腹に、ゴルファー人生としては紆余曲折、ジェットコースターのような軌跡をたどってきました。
今季はメジャーでも存在感を見せ、5月の「全米プロ」、飛ばし屋有利とされるベスページブラックコースで14位タイ。先々週の「全米オープン」では、ツアー屈指の飛距離を誇るブルックス・ケプカ選手(米国)と最終日に同組で回り、3位タイ。この結果が大きな自信となり、今大会の勝利につながりました。
彼の静かな表情や控えめな姿勢を見ると、「絶対に優勝したい」「どうしても勝ちたい」という勝利への欲があまり感じられません。たぶんそれは個人として優勝の頂きに立つことよりも、優勝争いができる幸せや、支えてくれる多くの人たちへの感謝の念のほうが上回っているからだと推測します。
11年という歳月は、孤立感、絶望感を味わうのに十分な期間だったことでしょう。彼の歓喜の涙は優勝した瞬間ではなく、本来の調子を取り戻したここ1、2年の間にすでに流れていたのかもしれません。(解説・佐藤信人)