「メダルよりうれしい」特典も 稲見萌寧にとっての“銀”の価値
◇国内女子◇NEC軽井沢72ゴルフトーナメント 事前情報◇軽井沢72G北コース (長野)◇6679yd(パー72)
「東京五輪」で日本人初のゴルフのメダリストに輝いた稲見萌寧は、その翌日も千葉県の拠点練習場で汗を流した。本人は普段と変わらない様子でも、報道やSNSに2000件を超す祝福メッセージが届いたことで影響力の大きさが身に染みる。
「こんなに周りの方が喜んでくれるんだという感じでした。オリンピックは4年に1度の一大イベント。でも“そこ”に向けて、というよりも、LPGA(国内女子ツアー)で毎試合、毎試合と頑張っていた。自分の気持ちの行き方が違っていたので、そんなにすごいことだという実感はなかったですね」。オリンピアンとしての大役を終え“普段の職場”に戻って感じる自分と周囲との温度差はうれしいギャップと言える。
稲見自身、「銀を取ったことよりもうれしく思っちゃいました」というのが、メダル獲得によりツアーから付与された5年間の長期シード(2022年から10年以内の行使で、適用開始年度から連続5年)。「あまり海外(ツアー挑戦)を考えていない。日本主体で頑張りたいので本当に5年シードはめちゃくちゃうれしかった」と顔をほころばせた。
ツアープロとしての非日常体験は「2位でもたたえられる」という状況にもある。普段は1打差の惜敗直後に笑えるはずがないが、五輪は別物だった。「ちょっと複雑と言えば、複雑です。慣れない感じ。『メダル、おめでとう』ならしっくりくるが、『銀、おめでとう』と言われると…『2番目だなあ』という感じがしますね」
米国のネリー・コルダと並ぶ首位で迎えた最終18番で、ボギーをたたいて“銀”だったからこそ生じる思いもある。「もちろん金の方がすごいこと。一回、手が届いていたのでその辺の悔いはなくはないです」という本音も明かした。
息つく暇もなく主戦場のツアーは連戦がスタートする。五輪では外国人選手たちとの飛距離差を実感し、パワーアップを今後の目標の一つに据えたが、いきなり背伸びするつもりはない。「オフで15から20yd伸ばせれば。ただ、いま増やそうとすると崩れてしまう。自分が課題としているスイングを意識しながら振れるようにするのが一番」と動じない。
今季6勝(通算7勝)、賞金ランキングは小祝さくらに次ぐ2位で再始動。「達成したことない(国内)メジャー優勝が一番の目標。あとは早めに(通算)二桁優勝をしたいなと思います」。シーズンのターゲットはメダリストになる前と同じだった。(長野県軽井沢町/桂川洋一)