井上透コーチ、成田美寿々のアドバイスで不安消えた識西諭里
新型コロナウイルスのため延期された日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の2020年度プロテストは今年3月、1次が5会場でスタートする。未曽有の事態の中、多くの選手が「合格率3.3%」ともされる狭き門に挑む。彼女たちは何を思い、クラブを握ってきたのか? その素顔に迫る。
■苦い経験「全否定された…」
23歳の識西諭里(おにし・ゆり)には、苦い経験がある。19年の2次最終日、最終ホールのバーディパットをあえて入れにいかなかった。「3mの下りを寄せてパーにしました。それでパープレーだったので、これで通過できると思って、頭の中でガッツポーズをしました」。しかし、結果は1打足りず…。「会場にはスコアボードもないのに、勝手に通過ラインを決めてしまった。自分を全否定された気持ちになり、かなり落ち込みました」
10歳でゴルフを始め、高校から能力が開花した。全国大会3位の実績もあったが、プロテストは4回跳ね返されている。16年の1回目は最終で、17年の2回目は2次で1打足りず。18年の3回目も最終で、19年の4回目が最も悔しい結果になった。その後、何か足りないのかを紙に書き出した。そして、「テスト合格」では具体的ではないことに気づき、「毎ラウンド3アンダー」を目標に掲げた。
何をすべきかを考え、4年間いなかったコーチを探し始めた。周囲に勧められたのは、多くのプロが師事する井上透氏だった。コーチに詳しくなかったため、すぐに検索。「映像やデータに基づいた指導法を知り、インスタのDMでコンタクトしました」。井上氏の門下生からの後押しもあり、「いつ来られますか」と返信があったという。
■井上透コーチから受けた意外な言葉
「このままでいい」-。井上氏にスイングを見てもらい、受けた言葉は意外なものだった。「調子が悪くなると、人のちょっとした言葉に左右されるのですが、『人の言うことを気にしてはダメ。人のスイング動画も見なくていい』とも。これで遠回りしなくて済むと思いましたし、いろんな不安が消えました」
20年1月末には、同氏が主宰する米国合宿にも参加した。成田美寿々ら約20人と練習を重ね、学び取ったことも多かったという。「(ツアープロと)ショットでは引けを取らないのですが、アプローチの差を感じました。成田さんは面白くて優しい人で、プレーオフ時の心境を聞いたら、『楽しんでいる』と。私なら絶対に緊張しますが、『私も今の状況を楽しみたい。命が取られるわけではないし』と思えるようになりました」
5回目の挑戦に向けて環境も整ってきた。昨年1月から地元企業の社員となり、同社所有の室内練習場、ジムを使っている。同3月からは、ツアープロを目指す選手支援を目的にした団体「DSPE」のメンバーに登録。月例競技会では昨年12月時点で、平均ストローク1位(72.27)、ドライビングディスタンス1位(246.1yd)と実力を発揮している。コロナ禍によるテスト延期で「一時的にモチベーションが落ちた」が、おかげで持ち直したという。「とにかく勝負事には負けたくないタイプなので、常に『勝ちたい』と思って、福岡から関東の会場に来ています」
3月の1次に向け、2月中に予定される井上氏主宰の沖縄合宿で調子を上げるつもりだ。「楽しみにしています。成田さんのような目標にすべき選手を近くで見られることが大きいです。この挑戦に期限は決めていませんが、次のテストで決めたい思いはあります」。DSPEメンバー30人の中でも、安定感とスケールの大きさ感じさせる23歳。19年2次で得た教訓を胸に一打を大事にする。
◆DSPE(Dead Solid Perfect Entertainment)
2020年3月、ツアーでの活躍を目指す女子ゴルファー30人を支援するプロジェクトとしてスタート。2020年からプロテスト未合格者は、レギュラーツアー、ステップアップツアーに出場できなくなった状況下、合格を目指す選手たちに、月例競技会(年12試合)を実施している。練習に打ち込むメンバーの模様は、DSPE公式サイトなどで発信している。