救済を受ける?受けない? 松山英樹が下した判断
ゴルフのルールブックを開くと、最初に飛び込んでくるのは次の文言だ。
「球はあるがままにプレーせよ。コースはあるがままにプレーせよ。それができないときは、最もフェアと思う処置をとる。最もフェアと思う処置をとるためには、ゴルフ規則を知る必要がある」
とはいえ、おやっと思うような処置を目にすることも少なくはない。それは、プレーヤーの意志を尊重するゴルフ競技の性質上、完全にはなくならない類いのものだろう。
「WGCデルマッチプレー」の2日目、松山英樹のプレー中に起こったある場面は、そんな疑問も起こり得るケースだった。舞台は松山が4アップで迎えたドーミーホールの15番。ここで、松山はティショットを大きく左に曲げてしまい、球はカート道のさらに左の池のふちギリギリのラフに止まった。
球から見てグリーン方向には、仮設のホスピタリティテントが建ち並び、もしそちらに打っていくつもりならば、動かせない障害物として救済を得ることができる状況だ。置かれた球の位置を考えると、かなり右の、フェアウェイ付近まで球を出すことができたかもしれなかった。
競技委員がやってきて、松山にこう聞いた。「もし障害物が直接的に邪魔になるなら、救済を受けられる。で、君はどう打とうとしているんだい?」
球の近くで左打ちの素振りを1、2度行った松山だったが、すぐに諦めて、通常の打ち方で右真横に出すことを選択した。そこに邪魔になる障害物はなく、もちろん救済も受けなかった。
その後、居合わせた競技委員に確認すると、もしあの場で松山が左打ちで(右打ちだとスタンスが取れないため)ピン方向を狙うつもりだと主張したら、救済を受けることはできただろうと教えてくれた。救済を受けて状況が変わり、今度はそこから通常の右打ちでピンを狙ったとしても、なんらルール上の問題はないという。
「でも、人々の議論の対象にはなっただろうね」とその競技委員。「彼は正しい判断をしたと思うよ」。
今回、松山はこのホールを引き分ければマッチに勝利するという状況だった。もしもこのホールを落としても、残り3ホールで1つでも引き分ければ、それで勝ちが決まる。無理をする必要はなかった。
だが、もしこれが優勝の懸かった決勝戦で、相手にドーミーを取られている状況だったらどうしただろう? その場合、左打ちでピン方向を狙うという選択肢の現実性も、より高まってくるのは確かだが…。
やはり、“ルールを利用する”のではなく、“フェアと思う処置をとる”ためにルールの助けを借りる、という立場で考えるのが大切だろう。サッカーなどで“マリーシア”と呼ばれるしたたかさは、ゴルフでは違和感にしかならない。その意図が、本心かどうかが肝心だ。
このときの処置について、松山本人に聞いてみた。「左打ちで狙うと主張したら救済も受けられたようだけど?」。すると、松山はフンッと鼻で笑って即答した。
「そんな現実じゃないことが通じるとは思えないし、それは分かりきっていることなんで、言う価値もないですね」。この男に関しては、余計な心配は無用のようだ。(テキサス州オースティン/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka