ほとばしる集中力 松山英樹の紡ぐ1打
カリフォルニア州にあるリビエラCCで行われた米国男子ツアー「ノーザントラストオープン」の最終日、松山英樹は苦しんでいた。通算9アンダーからスタートしたが、前半だけで2度の3パットを喫し、首位の背中はホールを追うごとにどんどん遠く小さくなっていた。
スタート時の3打差が、前半9ホールを終えて5打差へと広がっていた。折り返した10番は、1Wをグリーン手前まで運び、アプローチはピン手前2mへ。だが、このパットが決まらない。直径108ミリのカップが、この日はゴルフボールのように小さかった。
迎えた11番(583yd/パー5)。松山は1Wのティショットを左へと曲げた。ロープ外のラフまで到達した球は、左前方に巨大なユーカリの木が立ちふさがり、まっすぐグリーンを狙うことはままならない。優勝戦線から脱落しかけ、多くはなくなったギャラリーに取り囲まれた松山は6Iを握りしめた。やや右を向いてアドレスし、呼吸に同調するように球の後ろでクラブヘッドを上下させるいつものルーティン。そこから一閃、靴底のようなディボット跡を残して放たれた球は、弾丸のような低いドローボールの軌道を描き、200yd先のフェアウェイをとらえていた。
松山のプレーを見ていて思うのは、どんな状況下でも、決して“適当に打った”と感じる1打がないことだ。ミスショットが続いても、予選落ちをしそうなときも、優勝争いから脱落しても、常にいつもと変わらぬ丁寧なルーティンから1打を紡ぐ。
簡単に一喜一憂しないのは、この日松山が語った18ホールのマネジメントを聞いて合点がいった。「今のトップ(14、15アンダー)くらいのスコアは出るかなという感じはあったので、そこまで伸ばさないとチャンスはないと思っていた。そのために18ホールをどう回っていくのか考えていた」。
1打や1ホールのミスがあっても、次の1打、次のホールで取り返せる。その一方で、前のホールのミスが、それ以降のホールに影を落とすことも同様に起こりえる。「(6番のバーディパットが)入っていたら、8番のボギーもなかったと思うし、10番で(バーディパットを)外しているから、12番もプレッシャーが掛かってボギーにした」。1打で途切れることのない思考。これが18ホール、そして4日間、さらに言えばシーズンを通して続いていくのだ。
だから松山は言うのだろう。「別に(首位との)差が開いても、投げ出すようなことはない。18ホール、ちゃんと自分が目指しているゴルフをすることが大事だと思う」。その集中は見ている側にも伝わってくる。だからこそ、彼のゴルフを見ていると、途中で離れがたく感じるのだ。(カリフォルニア州パシフィックパリセーズ/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka