ぜいたく禁止令下の中国 ゴルフに吹く追い風と向かい風

中国国内でゴルフ用品販売を手がける担当者が、大きく息を吐くようにつぶやいた。「全然、売れないですね…」。習近平指導部が綱紀粛正を名目に進める倹約令は、公務員の過度なぜいたくを戒めており、ゴルフプレーも原則禁止される。私的なラウンドはOKとはいえ、もしラウンド中の様子を撮影されれば、自身の立場を保障することは容易ではないとあって、多くの人々がプレーすることをちゅうちょしているという。

ある統計によれば、中国国内で年に8回以上ゴルフをプレーする人は、2012年時点で42万人。ほぼ半数を公務員が占めていたとされる。

今年3月には、政府から国内約100カ所のゴルフ場に対して閉鎖・改善命令が出された。2014年にスタートして今年12試合が開催されるPGAツアーチャイナのトーナメント会場のゴルフ場のいくつかも、来年以降の営業が危ぶまれる状態だという。

先週、上海で開催された世界ゴルフ選手権シリーズ「WGC HSBCチャンピオンズ」の会場でも、ゴルフというスポーツが中国で幅広い市民権を得るにはまだまだ時間が掛かるだろうと感じた。ボランティアとしてギャラリー整理をしていた大学生たちに話を聞くと、ゴルフをしたことがあるという人が1人もいなかっただけでなく、ゴルフをする友達すら思い付かないと首をひねるばかりだった。

そんな彼らの目の前で、中国人としてPGAツアーでの最上位フィニッシュとなる7位に入ったのが20歳の李昊桐（リー・ハオトン）だ。首位と2打差で出た大会最終日は、最初の5ホールで4ストロークを落とす悲惨な立ち上がりだったが、それ以降は4バーディ、ノーボギーでみごとな巻き返しを見せた。

9番では2打目をグリーン右の池に落としながら、ドロップ後の4打目を直接沈めるチップインパー。タイガー・ウッズばりの派手なガッツポーズでギャラリーの興奮をあおると、終盤16番では10m以上のバーディパットを沈めてバンザイ。続く17番でもバーディを決めて右拳を握りしめ、18番をパーで締めると、拍手喝采するギャラリーへ向かっていくつもの球を投げ込んだ。

「今日は1年間で最もアップダウンのあった日だったけど、本当に運があった。ずっと応援してくれたファンに感謝したい」と李。ホールアウト後は、サインを求めて群がるギャラリーにいつまでも対応を続けていた。

それを見て思い起こされたのは、かつて宮里藍や石川遼の出現を歓喜しながら迎えた日本での光景だ。たくさんの若き才能が、彼らの後を追うようになった。もちろん、李の中国内での注目度は、日本での宮里や石川のそれにははるか及ばない。

ただ、この日の李のプレーは、多くの子どもたちを触発したに違いない。「リー・ハオトン！」と声を張り上げて応援していた彼らが、李とともに世界を舞台に戦い、中国中を熱狂で満たす日も決して遠くないはずだ。（中国・上海／今岡涼太）

＜中国人選手によるPGAツアーでの上位フィニッシュ＞
李昊桐 7位タイ 2015年WGC-HSBCチャンピオンズ
リャン・ウェンチョン 8位タイ 2010年 全米プロ
リャン・ウェンチョン 12位タイ2008年 チューリッヒクラシック
張新軍 13位タイ 2011年WGC-HSBCチャンピオンズ
リャン・ウェンチョン 15位タイ 2013年WGC-HSBCチャンピオンズ
リャン・ウェンチョン 24位タイ 2012年WGC-HSBCチャンピオンズ
リャン・ウェンチョン 25位タイ 2010年ソニーオープンinハワイ
リャン・ウェンチョン 30位タイ 2010年WGC-CA 選手権
李昊桐 35位タイ 2014年WGC HSBCチャンピオンズ
リャン・ウェンチョン 37位タイ 2006年International