ゴルフ界の将来は?USGA本部に潜入
米国男子ツアーのプレーオフ初戦「ザ・バークレイズ」が行われたプレインフィールドCC(ニュージャージー州エジソン)から、北西に15マイルほど行ったファーヒルズという町に、全米ゴルフ協会(USGA)の本部はある。「全米オープン」や「全米女子オープン」を仕切るあのUSGAの本拠地だが、町の静かな一角に、それはひっそりと隠れるように佇んでいる。
敷地には数々の歴史的展示品を所蔵するUSGAミュージアムとともに、リサーチ&テストセンターが併設されている。今回はそのリサーチ&テストセンターについて触れてみたい。
このリサーチ&テストセンターは、USGAのイクイップメント・スタンダード(ES)と呼ばれるゴルフ道具の基準を決める部署のホームグラウンドとなっていて、日々持ち込まれるクラブや球、シューズや手袋などの公認作業などを行っている。特に球に関しては、英国R&Aに同様の設備がないために、今は全世界の公認作業をここで一手に引き受けているのだという。(R&Aはキングスバーンズに新施設を建設中)
ゴルフルールを統括するUSGAとR&Aが共同声明として出した信念(プリンシプル)がウェブ上でも公開されている。「ルールの目的はゴルフの最も大切な伝統を守ること。選手の技よりも、(道具の)技術的進歩に過度に頼ることを防ぎ、選手の技がゲームの成功においてもっとも重要な要素であることを確かなものとすることである」。
2010年1月1日から施行されたクラブフェースの溝規制は、ラフからのスピン量を制限することで、ショットの正確性がよりゲームの結果に影響を与えるようにしたもので、まさにこの信念に合致するといえるだろう。つまり、ここでは道具という観点から、ゴルフゲームの健全な発展を下支えしているのだ。
近年、選手の飛距離アップとそれに対するコース対応の限界について耳にする機会が多い。古いゴルフ場は、新しい道具によってハザードたちが簡単に回避され、いとも容易いコースへと成り下がった。ティグラウンドを下げるにも敷地には限界がある…。そんな話だ。
そんな懸念を、今回施設を案内してくれた同センターの業務責任者、ジョン・スピッツァー氏にぶつけてみた。球の大きさを変える等の対応を考えているのか?と。
「球の大きさはあまり飛距離には関係しないんだよ」とスピッツァー氏。「素材や構造の方が影響する」と釘を刺されてしまったが、「でも、最近は飛距離の伸びは止まってきているから、そこまで心配はしていない」という。「それよりも、最近はプレー時間のこと、それから環境への影響についてのリサーチに力を入れている」と教えてくれた。
たとえば、ピンフラッグを抜いた時間と戻した時間を自動計測して、各組のプレーペースを把握する。それから、ゴルフ場の水利用の問題について等…。
話はそれるが、10月に米国ゴルフダイジェスト誌が海外パートナーを集めた会議を開くのだが(GDOもその一員である)、そのゴルフコンペはゴルフボードという名の1人乗りカートを利用したものになるという。もちろん、これもプレー時間短縮とゴルフをより楽しもうという新たな取り組みの1つだ。
米国ではゴルフ離れは下げ止まったと言われている。もちろん、景気や他のスポーツとの兼ね合いもあるだろう。だが、ゴルフ界を牽引する組織が率先して問題解決に当たる姿を目の当たりにして、将来を悲観する必要もそこまでないのかなという気持ちになれたのは確かだった。(ニュージャージー州ファーヒルズ/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka