異端?現実を直視する松山英樹のメンタル術
ベン・ホーガンの面影がコース内の至るところに息づくコロニアルCC。歴史と伝統に彩られたコースで行われた米国男子ツアー「クランプラザインビテーショナル」は、松山英樹が同ツアーで初めて最終日最終組を経験した大会となったが、プレーオフには3打及ばず、初優勝には届かなかった。
よく“朴訥”という表現をされる松山。言葉が少なくぶっきらぼうなイメージが先行しているが、最近は「難しい質問ですね…」と頭を悩ませながらも、必死に言葉を繋いで自らの感情や考えを説明してくれる。最終組での18ホールを回り終えた直後、記者達の質問に答えた松山の言葉の中に、彼独特の思考法が垣間見えたので紹介したい。
“(前回優勝争いした)フェニックスと比べて進歩が感じられた部分は?”
「ないです」
“フェニックスでは緊張感からパッティングに苦しんだ。今日の感触は?”
「悪くなかったけど、入るか入らないかの差。勝つためには入れなきゃいけないんで、感触とか言っていられない。それが今日は入らなかった、残念ながら」。
“最終日最終組での経験は今後に生かされると思うが、どうか?”
「最終日最終組で回って優勝したときが、経験を生かせたと言えるときだと思うので、それまでは、優勝するときまでは、しっかりと練習していきたい」。
ゴルフにおけるメンタル術では、どういう考え方が正しいか、正しくないかということは一概には言えず、その人にあったものが一番正しいと思うのだが、最近では宮里藍や石川遼のように、どんなに悪い状況の中にあっても良い部分を見つけ出し、ポジティブさを維持し続けようとする人たちが多くなっているように感じられる。もちろん、口には出さずとも心の中で反省し、葛藤し、克服しようとしていることはどの選手でも同じだろうが。
だが、松山は結果至上主義に則り、ダメなものはダメと断言する。その姿勢は潔さとも捉えられる。ポジティブな答えを引き出そうとしても、言下に否定されるか、空回りするのがオチだ。
松山と同じ傾向を持つのは藤田寛之だ。「失敗に向き合わないと、克服できない」と話す藤田は、否定的な言葉を使うことに躊躇はない。時に“このままこの人はゴルフを辞めてしまうのではないか?”と思ってしまうほどに自分を貶める。だが、そういう厳しい言葉を自分に浴びせて、さらに公にすることで、問題意識や危機意識を高め、さらなる進歩に繋げているのだ。
世界一レベルの高い米国ツアーで、結果を残すことは容易ではない。アーノルド・パーマーは、プロにもアマチュアにも共通するゲームの秘訣として以下のことを明かしている。「悪い日を振り払い、忍耐強く、心の中でいつの日か再び頂点に立てることを信じるメンタルを養うこと」。これからも、松山の自分自身へのダメだしは続いていくことだろう。(テキサス州フォートワース/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka