中東か?カリフォルニアか?“砂漠”の選手争奪戦
健康を旗印とする米ツアー「ヒュマナチャレンジ クリントンファウンデーション」のメディアダイニングで、カリフォルニアの日射しをたっぷり浴びた野菜中心のランチを食べていると、同じテーブルに座っていた大会関係者とおぼしき老紳士が話しかけてきた。
「君は日本から来たのか? 誰を取材しているんだ? なるほどRyo Ishikawaか。ところで、君はこの試合にミケルソンやマキロイが出るべきだと思わないか? それにもちろんタイガー・ウッズも。向こう(欧州)にアピアランスフィ(大会出場報酬)がなければ、こっちに出るに決まっているよな? そう思うだろう?」なかば強引に同意を求められて、僕は「その通りだ」とうなずくことしかできなかった。
この「ヒュマナチャレンジ クリントンファウンデーション」は、1960年に「パームスプリングス・デザート・ゴルフクラシック」として第1回大会が開催された。当時からツアーの中では特異な5日間4コースを使って行われるプロアマ混合大会で、65年からはハリウッドスターのボブ・ホープの名を冠し、多くのセレブリティたちがプレーした。95年には、当時の現役大統領だったビル・クリントンと元大統領のジョージ.H.W.ブッシュ(お父さんの方です)、ジェラルド・フォードの3人が一緒に回ったこともある。
だが、近年になって大会人気に陰りが見え始めた。要因の一つには、ツアースケジュールがタイトになり、5日間のラウンドで、さらにアマチュアも同組で回るためにプレー時間も余計に掛かる大会形式に対する選手たちの嫌悪感。そして、同時期に欧州ツアーが開催する中東での大会が、豊富な資金力を背景にトップクラスの選手たちに高額のアピアランスフィを提示し、次々に招待していったことが挙げられる。
PGAツアーのコミッショナー、ティム・フィンチェムは数年前、クリントンのもとを訪れてこう訴えたという。「ボブ・ホープの試合をなんとか助けないといけない。PGAツアーにとって大変重要な大会だし、コーアチェラバレー(大会が開催されるカリフォルニア州南部の平原地帯)や、地域のチャリティ活動にとっても重要だ。この大会がなくなってしまいそうなことをとても懸念しているんだ」。
そして、米医療保険サービス大手「ヒュマナ」社とクリントンの持つチャリティ財団を結びつけ、地域に住む人々の健康と豊かな生活の実現を目指すビジョンでの“大会再生”に着手した。
一方で、中東の勢いは加速し続けている。「Golf in Abu Dhabi」として政府主導で行われているUAEのゴルフ観光を基軸に据えたプロモーションが功を奏し、UAE全体で2013年の海外観光客のラウンド数は前年比149%と増加している(アブダビ観光文化局による)。その中で大きな役割を果たしているのが、今大会と同じ週に開催され、今年はミケルソンやマキロイらが出場した欧州ツアー「HSBCアブダビゴルフ選手権」なのだ。
「ヒュマナチャレンジ クリントンファウンデーション」として生まれ変わった今大会は、12年のスタート以来、大会日程を5日間から4日間へと短縮。今年はセレブリティの参加をなくし、大会進行のペースアップにも気を配るなど、選手のホスピタリティ向上に全力を挙げている。
クリントンは言う。「地域の人々は、健康をテーマにしたこの大会にとても協力的で、想像以上のペースで発展を続けている。大会自体も、思っていたよりも早く復活してきている。もしアピアランスフィに関するPGAツアーのルールが欧州ツアーでも適用されたら、その回復ペースはもっと速まるだろうね(笑)」
両者の綱引きはまだしばらく続くだろう。そういう事情は抜きにしても、プロアマ特有のゆったりした時間の中で、スタッフたちもリラックスして楽しんでいる雰囲気はまんざらでもない。
予選ラウンドで石川遼の写真を撮っていると、選手のそばにいたマーカーのおじさんがつかつかとこちらに向かって歩いてきた。「今、写真を撮っていただろ?私はうまく笑えていたかい?」こんな冗談もこの大会の魅力のひとつだ。(カリフォルニア州ラ・キンタ/今岡涼太)