プレーヤーとギャラリーの願うべき関係
タイガー・ウッズの復活優勝が、いよいよあと一歩に迫った。フロリダ州のベイヒルクラブ&ロッジで行われている「アーノルド・パーマーインビテーショナル」は3日目を終えてウッズが大会7度目の優勝、そしてツアーで2年半ぶりの勝利に王手をかけた。
大会3日目を迎えたこの日、PGAツアーのオフィシャルサイトには、この状況を待ち望んでいたかのような見出しが立った。「The buzz is back(ざわめき、騒音が帰って来た)」。メイン写真はもちろんタイガー。計り知れないほどの大きな期待が、3日目のコースに渦巻いた。
最終組をプレーしたこの日、当然のように大ギャラリーを引きつれ、タイガーはコースを闊歩した。アドレスの際には気味が悪いくらい静まり返り、打球音と同時に声援が上がる。ボールが着地する前から、たまらず叫びだす人、多数。チャンスについた放物線には地鳴りのような賛美の声がこだまする。タイガーが歩きだすのと同時に、観衆もいそいそと足を進める。出来るだけ近くで、スターのプレーを見たい…。そんな気持ちはギャラリーに限らず誰だって同じ。
ツーサムラウンドの同伴競技者、チャーリー・ウィ(韓国)の、1メートルのパーパットなんてお構いなし。大半がいそいそと続くホールへ向かうのだった。
日本ツアーでも時折“悲しい出来事”として取り上げられることがあるが、こんなスター選手偏重の観戦風景は世界最高峰のツアーでも起こること。なにも石川遼らの選手に限ったことではない。もちろんその心無い行為を擁護する気など無いが、現実に起こっていることではある(メディア関係者や大会スタッフには絶対にあってはならないことだが)。
ただし、そんな中でもウィは黙々と、笑顔を絶やさずプレーを続けていたのが印象的だった。米ツアー未勝利の40歳は、過去にラウンド中にギャラリーから「あれはミッシェル・ウィの父だ」と間違えられた苦いエピソードも持つ。タイガーとの同組についてギャラリーの動きがプレーに影響する可能性ももちろんあったが「彼とプレーするのは楽しみなんだ」と話していた。
ウィのラウンドが常に注目されなかったわけではなく、素晴らしいショット、パットにはタイガーと同じように声援が飛んだ。どんなに“邪魔”が入ろうと、その場の一打に集中した。タイガーどころか“外野”に負けているようでは勝てない、ギャラリーの注目を引き戻すようなプレーを、毎ショットで目指していたように見えた。
今年の国内男子ツアーは約3週間後の「東建ホームメイトカップ」で開幕する。ギャラリーは動かない、プレーヤーはギャラリーを動かさない、そんな思いが一緒になれば、気持ちの良い観戦環境ができるはず。まずはプロゴルファーに、観衆の足を止めるプレーを大いに期待したい。(フロリダ州オーランド/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw