本場のリンクスで苦しんだ日本勢
イングランド・ロイヤルセントジョージズGCで行われた海外メジャー第3戦「全英オープン」は17日(日)、北アイルランドのベテラン、ダレン・クラークのメジャー初制覇で幕を閉じた。6選手が出場した日本勢は池田勇太ひとりが決勝ラウンドに進出し38位タイでフィニッシュ。キム・キョンテ(韓国)らを含む日本ツアーメンバーは14人のうち、予選を通過したのは3人だけだった。
イングランド南東部、ドーバー海峡にほど近いロイヤルセントジョージズGCは、年ごとにローテーションされる全英、全英女子の会場の中でも“リンクスの中のリンクス”と言われるほどのコース。海岸線を沿うように北から、南からと風向きは毎日変わる。フェアウェイのアンジュレーションは大きく、そして数多く。グリーンももちろん同じだ。だから同じようなショットの弾道でも、落ちどころのわずかな違いで、50ヤード以上ランが出てみたり、無残にポットバンカーに入ったり。グリーンでも、ピンに寄るかと思ったらスロープを下って転がり落ちたりと、幸運と不運が常に背中合わせだった。
ラグビーやクリケットといったイギリス発祥のスポーツは、不規則な動きをするボールを使ったり、地面にボールをバウンドさせるところから始めたりと常に“イレギュラー”がつきまとうという話がある。偶然すらも制する者が勝者、「強いものが勝つ」よりも「勝ったものが強い」という考えを、普段よりも感じた。藤田寛之は今大会を前に「人工的なものとではなく、本当に自然と戦うという感じ」と心を躍らせ、大会に臨んだものだ。
しかしその藤田、予選落ちした2日目のラウンド後、いつもの自虐的な反省の弁に加え、珍しく“弱音”を吐いた。国内屈指のショートゲーム巧者が「今回はアプローチで壁を感じた」と言った。硬く締まったフェアウェイとグリーンの境目がつかないくらいに刈り込まれた芝からの“寄せ”に苦労した。それは経験したことのない壁、未知との遭遇と言ってよかった。
「硬いところから“パチッ”とクリーンに打つのが難しい。日本ではアプローチでクラブを芝の上に“滑らせて”打つでしょう。でもここはそれができない。セントアンドリュースでは、パターで転がすことができたけど、ここはね…」。グリーンとその周りの傾斜があまりにも大きくて、パットでピンに寄せるイメージが出ない。だからウェッジ、アイアンで対処するが、ボールに対して、よりクリーンにアプローチする精度の高さが求められた。
「日本のゴルフ場にはありえないこと。ヨーロッパの選手はうまかった。年に1回やるだけでは厳しい。青木さんが昔、全英の前に河川敷に行ったというのもよくわかる。ホントにこういうところから打つ練習かな」。木製の床を足で踏みながら言った。
大会前、フェアウェイが硬くティショットでランが出やすいことから、飛距離のアドバンテージが消され、全長の長いマスターズや全米オープンよりも「ここなら戦える」という選手は多かった。けれど本格リンクスと対峙し、普段の戦っているコースとの違いを目の当たりにして、本当の恐ろしさを知った。
藤田は「海外の“ペタペタ”のコースでも戦えるように、日本でも(大会の)スポンサーさんが『海外でも通用する日本人選手を育てる』というコースにしていただけたら、本当にありがたい」と懇願するように話した。
「コースが選手を育てる」とはよく言われることで、決して今回の全英に、リンクスに限定されるものでもない。「あと2日、週末、やりてぇ」。藤田は最後に心の底からそうつぶやいて、英国を後にしたのだ。【イングランド・サンドウィッチ/桂川洋一】
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw