2019年 ZOZOチャンピオンシップ

ZOZOの余韻、松山英樹と“まぼろしの一打”

2019/10/29 17:15
優勝への”ワンチャンス”に懸けた一打

◇日米ツアー共催◇ZOZOチャンピオンシップ 最終日(28日)◇アコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブ◇7041yd(パー70)

ロープ際で松山英樹の後ろ姿を見つめながら、“あぁ、この瞬間を待っていたんだ”という心の声が聞こえていた。月曜日に順延された最終ラウンドの最終18番(パー5)、タイガー・ウッズを2打差で追う松山英樹のティショットは右クロスバンカーの中にあった。ピンまで残り267yd。キャディバッグから3Wを抜いた松山は、そのヘッドカバーをすっと外した。やはり直接狙うのか――。

ゴルフ記者になって以来、ずっと書きたいと思いながら書けていなかった原稿がある。勝利をつかんだ渾身の一打。ただ、その1ショットだけの記述。求めていたことが、いま目の前で起きようとしていた。日本初開催となるPGAツアーで、松山は最終組の1組前を回っていた。残り1ホールで2打差を追いつくには、ほぼイーグルが必須だった。バーディならば、ウッズのボギーに期待するしかないが、パー5でのそれは非現実的だ。

双眼鏡でライを凝視すると、球の後ろの砂がやや盛り上がっているように見えたが、大きな問題はなさそうだった。背後から飛球線を確認すると、右前方に木がせり出し、グリーンを狙うには20ydほどスライスをかける必要があった。

「イーグルを獲ればワンチャンス追いつけるかもと思ったので3Wを持ったけど、普通だったら3Wは持たないですね」という一打。澄んだ快音を残して放たれたその一打に、セカンド地点にいたギャラリーたちはどよめきと喝采の声をあげた。だが、球はスライス回転がかかりきらず、グリーン左のバンカーへと転がり落ちた。

どうだ!

そのバンカーからはセーフティなショットも選択できたが、「(ギリギリ狙わないと)寄ることもないし、入ることもない」とリスクを取って直接カップを狙いにいった。だが、球はトップ気味にピンを大きくオーバーした。「ギリギリ狙っていたのでしかたないというか、技術がまだないってこと」。持てる力を出し切った納得感からか、松山はさばさばと振り返った。そして、“勝利をつかんだ渾身の一打”も、まぼろしのままに終わった。

試合後の余韻は長く続いた。ウッズがPGAツアー最多優勝記録に並ぶ82勝に到達し、松山が72ホール目までウッズとの優勝争いを繰り広げた。金曜日は大雨に打たれて順延となり、土曜日は無観客試合になった。試合終了は月曜日。コース管理スタッフたちの尽力や、大会運営スタッフの昼夜を惜しんだ対応。最終組の全選手がホールアウトした瞬間、ZOZOで大会運営を取り仕切った畠山恩さんは、嗚咽まじりの涙を流していた。

金曜日と土曜日は1人のギャラリーも入れなかったが、火曜日から翌月曜日まで計5万4840人が習志野CCへと足を運んだ。みんな子供のように目を輝かせ、興奮に浮かれていた。PGAツアーの選手たちも、日本の熱心なファンの応援に感動していた。普段は直前まで自身の出場予定をあきらかにしないウッズですら、表彰式で来年の出場を明言した。隣で見ていたエージェントのマーク・スタインバーグ氏が、その発言に驚いて吹き出したほどだ。

日本のゴルフファンを覚醒させた一週間は松山にも、その余韻をしっかり残した。「たくさんのギャラリーの応援のおかげでショットもブレずに済みましたし、パターも入ってくれたと思う。そういう応援を普段からされていると思って頑張りたい」。記念すべき日本初開催のPGAツアーが、日本のゴルフ界に大きな楔を打ち込んだ。(千葉県印西市/今岡涼太)

■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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