2013年 クラフトナビスコ選手権

キム・インキョン、“あの”パットの教え

2013/04/03 13:35
昨年話題の中心となったのは、優勝者よりも負けたキム・インキョンだった

「スティーヴン・ホーキングも時間旅行の中で言っているでしょ。過去に戻って、同じことをやり直すことは出来ないって。だからみんな、今を生きなくちゃいけないの」。

この1年間、何度も何度も聞かれたであろう質問に答えたキム・インキョンは、高名な車椅子の物理学者の名前を引き合いに出し、説明を試みた。

“なぜ、あのパットを外したのか?”
“その事実とどう向き合っているのか?”

昨年の「クラフトナビスコ選手権」最終日、わずか30センチのウィニングパットを外して優勝を逃したインキョンは、試合終了後1時間以上も記者達の質問に答え続け、「問題ない」を繰り返した。そして今年もまた、同じ質問だ。

「私たちは人間でしょ。良いことも悪いことも覚えている。時々、その記憶の中で生きている人がいるけど、私はそういう人にはなりたくない。私はそうすることを選んだし、みんなも自分自身の道や人生を選べるの」。

米ツアーで過去3勝を挙げているが、直近の勝利は10年の「ロレーナ・オチョア招待」までさかのぼる。過去のメジャー大会では11度のトップ10入りを果たしながら、まだ“優勝”の二文字には届いていない。先週の「キア・クラシック」では、プレーオフに敗れて2位だった。

「去年のことは、私の人生勉強において大きなターニング・ポイントだったし、とても重要だった。違った視点を与えてくれたの」とインキョン。「最初はどう受け止めればいいか、とても難しかった。でも、これは見ている人たちだけではなく、若い世代の人たちにとっても知っているべき大切なことだと思うのだけど、いつも優勝とか輝かしいことばかりじゃない。人生は勝ち負けじゃないの。80歳になって振り返ったとき、“あのパットを決めてれば良かった”、なんてきっと思い出さない。どれだけ人生を楽しんだかってことの方が大事でしょ。そう考えるようにしたの」。

あのパットについて責められた、というインキョンだが、悲嘆する様子は無い。「あまり自分のことをかわいそうだと思ってはいけない。だって、人生なんだから。幸せになって、自分の持っているもので満足する。それが私の学んだことだと思う」。(カリフォルニア州ランチョ・ミラージュ/今岡涼太)

■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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