日本でわずか3人 ゴルフ専門スタートアナの職人芸
◇国内女子◇ニトリレディスゴルフトーナメント 最終日(26日)◇小樽CC (北海道)◇6628yd(パー72)
専業としては、日本に3人しかいない職業なのだという。
「お待たせいたしました。最終組のスタートです」。ゴルフの試合会場でティオフ前に選手を紹介するのは、スタートアナウンサー(スタートアナ)。ツアー観戦の経験がある人にとっては、聞き覚えがあるに違いない。スタートホールや最終日の最終ホールで、声で大会を盛り上げる重要な役目を担っている。
3人のうちの1人、キャリア18年目のフリーアナウンサー川口祥孔(さちこ)さんは「私たちの仕事はギャラリーサービス。お客さんにどういう選手かを紹介するのが仕事」と説明する。男女、シニアを合わせて年間約20試合を担当するベテランだ。1993年から野球やサッカーなどを担当してきたが、結婚を機にゴルフ専門となった。
1日の職務は夜明け前から始まる。1組目スタート(今大会では午前6時45分)の2時間前にはコース入り。雨などの悪天候でも野外のマイク前にかじりつき、任務を遂行しなければならない。
最終組のホールアウト後、翌日の組み合わせの発表を確認し、選手紹介の原稿を作成。コースを出るのは午後6時ごろで、試合会場での滞在時間は1日12時間以上になることもある。
「マインドが体育会系じゃないとなかなか続かない」と明かすものの、「楽しいのは選手紹介をしてお客さんが盛り上がってくれるところ。それにいいショットを打って気持ち良くスタートしてくれたらうれしい」と話す。
31年のキャリアを誇るフリーアナウンサーの崎間栄子さんは、自らの職業について「いざやってみると、すごく地味。私は『放送係』って呼んでいます」と語る。「話す姿を見て格好いいなと思ってくれる人がいるかもしれないが、本当にゴルフが好きじゃないと続かない」。アナウンサーという言葉の華やかさと実務のハードさがかけ離れており、後継がなかなか育たない実情はあるようだ。
仕事のコツを「できるだけ余計なことは言わないようにしている。変なコメントを言ってプレー中に気になっても困るので」。ある選手からはアナウンスを聞くと「気持ちが落ち着きます」と言葉をかけられたり、風邪気味で鼻声だと心配する声が届くこともある。
発音で難しいのはタイの選手と話し「キラデク・アフィバーンラトとか本人に聞いても通訳の人に聞いても正解が分からない。だから変にアクセントをつけず、普通にアナウンスします」とこだわりを強調した。
シーズンは折り返しを迎えたが、観戦に出かける機会があれば、プレーに加えてアナウンスの職人芸にも注目したい。(編集部/玉木充)
■ 玉木充(たまきみつる) プロフィール
1980年大阪生まれ。スポーツ紙で野球、サッカー、大相撲、ボクシングなどを取材し、2017年GDO入社。主に国内女子ツアーを担当。得意クラブはパター。コースで動物を見つけるのが楽しみ。