喜びと惜別の思いをこめて・・・新たな門出を祝う“餞(はなむけ)V”
3年間ともに歩んだ同志と優勝の喜びを分かち合ったものは、言葉ではなく熱い抱擁だった。千葉県の袖ヶ浦CC新袖Cで開催された国内女子ツアー「ニチレイレディス」最終日。首位と3打差、3位から出た申ジエ(韓国)が、5バーディノーボギーの「67」でまわり、通算11アンダーの鮮やかな逆転で、大会連覇を飾った。
この日は、ともに通算18勝の李知姫、アン・ソンジュという、同郷の強者が揃った最終組をプレー。「ミスは許されない」という状況で、ノーボギーの完璧なラウンドだった。李と、首位タイに並んで迎えた180ydの17番(パー3)。昨年は難しいアプローチを直接カップに沈めて優勝を引き寄せたホールで、23度のハイブリッドで放ったティショットをピンそば1.5mにピタリ。バーディとして逆転に成功した。
申は2日目を終えて、3年間帯同したフランス人のキャディ、フロリアン・ロドリゲス氏とのタッグを今週で解消することを公言していた。
理由は、元々はファイナンス系の業界に勤めていたロドリゲス氏の復職のため。申の胸中には「有終の美にしたい」という強い気持ちがあった。「彼とは友達。プロキャディでないけど、自分のことを信じて付いてきてくれた」と、出会った当時から現在に至るまでを言葉にしてくれた。
2人が初めて出会ったのは申が米国を主戦場としていたころで、初めてタッグを組んだのは、2012年の米国女子ツアー「キングスミル選手権」。2選手間のプレーオフではLPGA史上最長記録となるポーラ・クリーマーとの9ホールに及ぶ熱戦を制し、申がツアー2年ぶりとなる勝利をつかんだ大会だった。
昨年から日本を主戦場に移すと決めた際も、ロドリゲス氏は生活や文化の違いによって生じる変化を恐れず、二つ返事で快諾してくれたという。「いろいろと助けてもらった。本当は行かせたくないけど、仕方ないです・・・」。申は寂しげに、過去をともにした歴戦の記憶に思いを馳せた。
初タッグでの優勝から3年、新しい門出を祝す“餞(はなむけ)V”。「彼女は間違いなくベストプレーヤーだ。初めてジエと組んだときも勝ったんだ。それに最後と決めていた今週の大会でも勝てるなんて、これ以上の終わり方はないよ。とても幸せだ」。申と抱擁を交わした瞬間、そう話すロドリゲス氏の青い瞳にこみ上げた光るものが、2人のこれまでの信頼関係を証明しているようだった。(千葉市若葉区/糸井順子)
■ 糸井順子(いといじゅんこ) プロフィール
某自動車メーカーに勤務後、GDOに入社。ニュースグループで約7年間、全国を飛びまわったのち、現在は社内で月金OLを謳歌中。趣味は茶道、華道、料理、ヨガ。特技は巻き髪。チャームポイントは片えくぼ。今年のモットーは、『おしとやかに、丁寧に』。