国内女子ツアー

平井亜実「石川県出身として初優勝したい」 能登半島地震から3週間

2024/01/23 17:15
石川県出身の女子プロゴルファー平井亜実。被災地の情報にもどかしさも抱えている

1月1日午後4時10分に発生した能登半島地震から3週間が経った。最大震度7を観測し、地震の規模を示すマグニチュードは7.6。1995年の阪神・淡路大震災や2016年に起きた熊本地震のマグニチュード7.3を超える規模の災害となった。

現在、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の会員として登録されている石川県出身の女子プロゴルファーは、2人のティーチングプロを含め12人になる。そのうちの一人である野々市市出身の27歳、平井亜実は地震当時、日本を離れており、近くにいたほかの日本人の「石川、やばくない?」という声で故郷の非常事態を知った。

「思わず『えっ』てなって、携帯を見たらすごいことに…。知り合いからLINEがたくさん来ていて、『明けましておめでとう』よりも多かった。家族にも連絡したら、母の兄に連絡がつかないと言われて」。震度6強を観測した輪島市の門前町に住んでおり、その後は連絡が取れたものの「家はもう傾いて住めないって。結婚された娘さんが金沢にいるからそっちに避難したみたい」。建物はいつ倒壊が起きてもおかしくない状態だという。

大規模火災が起きた輪島市には75歳の祖母の家もある。しかし、「たまたまおばあちゃんはその日に検査入院で金沢の病院に行っていて。手術をするといっても膝のなんですけど。病気ではなくて、本当にたまたま」

「おばあちゃんの家は目の前が海で、輪島の奥の方。両サイドから土砂崩れが起きていて、迂回できる道もないぐらい小さな集落みたいなところだから、そこにいたら迎えにも行けていなかっただろうって。ヘリが1回入ったとは聞きましたけど家がどうなっているのか今もまだ全然確認できていないんです」

県から不要不急の移動を控えるようにという呼びかけもあり、状態を確認したくてもできない。ただ、家族は誰ひとり欠けることなく無事だったことに胸をなでおろした。

きっかけは世界一になった宮里藍

東京を拠点に日々練習。プロを目指すきっかけは宮里藍だった

人口は約111万人の石川県。男子では川岸良兼が出身プロゴルファーとして名前が挙がるが、石川県生まれの女子ゴルファーでレギュラーツアー優勝者まだ誕生していない。

ジュニア時代からゴルフをするのも「珍しい」と言われる環境で、クラブを本格的に握り始めたのは10歳の時。父に付き添って練習場に行ったのがきっかけだ。「プロになる」と決意したのも早く、「ちょうど小学5年生のときに宮里藍さんが世界ランキング1位になられて、『日本人でも世界一になれるんや』って。藍さんはサバサバ、キリキリしていて格好いい。優しそうな感じもあるし」と憧れと同時に夢が膨らんだ。

2022年「カストロールレディース」で下部ツアー初優勝(Getty Images)

高校は男子プロの川村昌弘らを輩出したゴルフの名門・福井工業大学付属福井高。卒業後は小松市にある小松CCで研修生をしながら5度目の挑戦でプロテストに合格し、2022年下部ステップアップツアー「カストロールレディース」で初優勝を遂げた。

「ステップで優勝した時はゴルフ場のみんな泣いて喜んでくれて、おばあちゃんも喜んでくれましたね。祖父はもう亡くなっちゃっていて、おばあちゃん一人で住んでいるからテレビ観戦をよくしてくれているみたいで」。プロ初優勝の瞬間は家族が集結して見届けてくれた。「おばあちゃん、テレビに向かって『(カップに)入れー』って叫んでいて。大きい声を出し過ぎて姉の子どもがビックリして泣いちゃう動画が送られてきました(笑)」

何もできないのがもどかしい

冬の間、石川県のゴルフ場は積雪でクローズになる日も多い

5年前に拠点を東京に移し、現在は浦大輔コーチのもとで練習に励んでいる。昨季はファーストQTでつまずき、今年はステップアップツアーでも推薦出場に頼る状態ではあるが「この1年は準備期間として、パッティングのライン読みからじっくり勉強したい」と小松CCでも練習をしながら試合出場の機会をうかがう。

地震で被害を受けた地域での炊き出しも計画中。「何かできることをしたくて、本当はすぐに現地に行きたいところだったけど市役所とかに問い合わせたら『今は…』という感じだったのでできなくて。何もできないのがもどかしい」。練習の場として使用している都内のゴルフスタジオ「√d(ルートディー)ゴルフアカデミー」のスタッフらとともに案を練りながら「炊き出し自体やったことなかったんですけど、アカデミーの先生に元イタリアンのコックという人がいて料理がすごく上手。現地ではレトルトの物ばかり食べていて便秘になるっていう話を聞いたのでちょっとでも栄養のあるものを食べてもらいたい」と支援のタイミングを慎重に見極めていく。

「石川県出身として、レギュラーツアーで初優勝したい」。震災で苦しんでいる人たちの活力になるように。活躍を喜んでくれる人たちのために。そして何より、テレビの前で喜ぶ祖母の姿をまた見るために誓った。(編集部・石井操)

■ 石井操(いしいみさお) プロフィール

1994年東京都生まれで、三姉妹の末っ子。2018年に大学を卒業し、GDOに入社した。大学でゴルフを本格的に始め、人さまに迷惑をかけないレベル。ただ、ボールではなくティを打つなどセンスは皆無。お酒は好きだが、飲み始めると食が進まないという不器用さがある。