しびれる争い 片山晋呉「このためにプロゴルファーをやっている」
我慢に次ぐ我慢。風が無くても耐えるのみ。華やかなバーディ合戦が繰り広げられる、いつものムービングデーとはやっぱり違う。今年の「中日クラウンズ」は3日連続で、全選手ホールアウト後の単独トップのスコアは通算1アンダー。リーダーこそ近藤共弘、松山英樹、片山晋呉と名前を替えたが、伸び悩みの展開のまま最終日を迎えることになった。
だが、難攻不落の和合コースにはファンをうならせるプレーがあった。片山、松山の最終組対決。終盤に突入する14番パー4は割れんばかりの歓声が2度響いたシーンだ。
第1打を左に曲げ、OBとした松山は打ち直しの3打目も右に打ち損じた。隣の15番ホールのラフから放った4打目はグリーン手前のバンカーへ。続く“目玉”からのショットはグリーンに乗せるのが精いっぱい。7メートルのダブルボギーパットを残した。しかし、これをカップにぶち込むあたりが怪物たる所以。「良いパットが打てた」とラウンド後の少ない言葉にも力がこもった。
そして直後の片山だ。ショットが暴れた好敵手に対し、フェアウェイからの第2打をピン左手前6メートルにつけた。松山のダボパットで、されたはずのフタをこじ開け、バーディを奪取。5打あった差が、一気に2打に縮まった。「あれは逆だったら“効くわね”」と40歳も胸を張った。
永久シード権を獲得した2008年。さらに1勝を加えた通算26勝目から、勝利から遠ざかっている片山は言う。「そういう時間が、『やったら、やり返す』というのが楽しい。そうやっていることが僕は一番好き。その中に加われたのが幸せだし、このために、プロゴルファーをやっているという感じ」。積み上げてきた戦績、そして勝利から見放されているこの4年半の経験が「勝負事はなかなかうまくいかないことも知っている」と、最終日を楽観視させない。だが「これを繰り返すこと。入れて、入れ返して、という時間を待っていた。それが嬉しい。勝つ、負けるというところではなくてね」と息詰まる戦いのわずかな瞬間を喜んだ。
最終日も忍耐強さを試される混戦となることが濃厚。各選手がプロゴルファーとして、ツアートーナメントを戦う上での醍醐味を味わう瞬間がコースにはきっとあるはずだ。
それにしても、プロになってまだ3試合目だということを、すっかり忘れさせる松山という存在も、やはりまた見事なのだ。(愛知県東郷町/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw