選手もガッカリ ツアー史上初の“無観客試合”
愛知県の三好カントリー倶楽部 西コースで開催された国内男子ツアー「コカ・コーラ東海クラシック」は最終日に異例の措置がとられた。日中に名古屋地方に接近した台風の影響で、ギャラリーの安全確保を目的に入場制限を実施。1999年の日本ゴルフツアー機構(JGTO)発足後初となる“無観客”で競技が行われた。
前日から上陸が懸念されていた台風17号。主催者および大会関係者はこの30日(日)の午前5時15分から協議を始め、ギャラリーゲートが開くおよそ1時間前、午前6時の段階で入場制限を決定した。大会事務局は「安全面という観点から。すべてのお客様に安全に帰っていただかなくてはならない」と説明。ラウンド前から、巨大な電光掲示板やスポンサーボードなど試合用の仮設物の撤去を開始した。一方で正規の72ホールを完了させるため、選手による競技は続行。予定通り午前7時から第1組がスタートした。
主催の東海テレビは、既にコースに向かっていた観客への説明など調整を図るため、自社の社員を急きょ動員して各所に配置。コースには大会関係者、ボランティアを含めた運営スタッフ、選手関係者、メディア関係者が入場。選手の家族、三好カントリー倶楽部のメンバーも入場を許可されたが、各ホールでの観戦は禁止となり、クラブハウスのテラスで、選手が9番ホール、18番ホールでプレーするわずかな瞬間に拍手を送っていた。
複数の最寄り駅からのギャラリー用移動バスは、入場制限が決定した直後に始発が出発してしまうアクシデントも。また、開催に気象条件が影響を及ぼすゴルフトーナメントは、一度購入された入場券の払い戻しは行われないのが一般的(チケットにその旨が記されている)とあって、説明を求める声が集中し、大会本部の電話が鳴り止むことは無かった。
ギャラリーの入場制限はJGTO発足後の男子ツアーでは前例が無いが、女子ツアーでは2007年の「スタンレーレディス」で無観客の中でプレーオフを敢行している。台風のほか天候不順による危険性を懸念し、最終日の朝に最終ラウンドの中止を決定。上田桃子、有村智恵、横峯さくらの三つ巴のプレーオフが静かに行われた。また、米国男子ツアーでは今年7月の「AT&Tナショナル」の3日目に入場制限を実施。前夜の暴風雨の影響でコース内の木々がなぎ倒され、ラウンド中も撤去を行った例がある。
残念ながら生観戦のチャンスを逸したギャラリー同様、選手たちも初めての経験に驚きを隠せない。プレーオフで惜敗した片山晋呉は「きょうは同組の3人(片山のほか額賀辰徳、近藤共弘)で、『バーディを獲ったら盛り上がっていこう』と話していた」としながらも、「日曜日の名古屋はいつも盛り上がるから、選手は楽しみにしている。もちろん寂しい。今日は見ていたら楽しかったと思うんですよね。前の組が(石川)遼で、次が僕の組だった。遼も(スコアを)伸ばしていたから…。でも残念だけど仕方が無い」。
午前11時過ぎにはホールアウトして、コースを後にした池田勇太は「やる気が出ない」とポツリ。「俺ら、見せるのが仕事だから」。そして藤田寛之は「変な感じはありましたけどね。バーディを入れても拍手が無いから…。やりにくさは無いけれど、やりやすくはない。ただ、選手は従うしかない。(運営サイドは)今日は頭が痛いと思う。苦労なさっていると思います」と大会関係者を慮った。
普段は大ギャラリーの中でプレーする石川遼も「いつもとは違う感覚」の中でラウンド。この日は6バーディ、2ボギーの「68」と好スコアをマークしただけに「自分の中では結構(テンションが)上がってきたという感じがあったけれど、それと周りの静けさとのギャップがあった」。
そして「お客さんに見てもらえないゴルフトーナメントは、どうなのかという思いもあるが、こればかりは自然が相手。判断を受け入れるしかない。72ホールやるために、明日(月曜日)に予備日があれば…とも思う。今の日本ではできないのかもしれないけれど…。難しい。どっちの(ギャラリー、主催者の)気持ちも良く分かる。仮に台風が来て、お客さんが避難できるスペースがあれば、また違うかもしれないが、それぞれにお金もかかるので…」。コメントの中に、何度も「難しい」という言葉を挟みながら、恨めしそうに空を見上げた。(愛知県みよし市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw