12時を回ったシンデレラボーイ 河野晃一郎
山梨県の富士桜カントリー倶楽部で開催されている国内男子ツアー「フジサンケイクラシック」2日目。トップから予選通過を果たした62選手が7打差以内にひしめく大混戦の中、ツアー1勝の河野晃一郎が通算3アンダーの5位と好位置につけた。
初日を「69」でまとめ10位タイと好スタートを切った河野は、この第2ラウンドでも堅実なプレーを持続。3番(パー5)、4番と1メートルにつけたチャンスをきっちりと活かし連続バーディ。その後ボギーを2つ叩いたが、後半は1つスコアを伸ばして「70」とし「完璧です。出来すぎです」。トレードマークの笑顔はこの日も満開だった。
だがその言葉には、有り余るほどの謙虚さでいっぱいだ。「同じ組の宮本(勝昌)さん、(池田)勇太が、良い感じで回っていて。2人はトッププレーヤーだから、こっちも気合が入る」。「今日のピンポジションは難しかった。世界に出て行く若手のためにはあれくらい厳しい方が良い」。どこか自分と“彼ら”との間に一線を引いたような心情が見て取れる。
昨シーズン、10月末の「マイナビABCチャンピオンシップ」でツアー初勝利を挙げた。いまや米ツアーメンバーとなったベ・サンムン(韓国)を6ホールにわたるプレーオフで下し、一躍ヒーローになった。ところが今季はここまで12試合中8試合で予選落ち。7月の「セガサミーカップ」では2日間で通算20オーバーを叩いて予選落ちした。周囲の先輩選手たちからは、いつしか「お前はシンデレラ」と呼ばれるようになった。
思えば、苦悩の始まりは開幕前のオフ。「もっと自分にはできるという感じで過信してしまった」と、さらなる飛躍のために美しいスイングを求め、バランスを崩した。「自分の気持ちに油断があった。精神的にも切れてしまってゴルフが続かなくなってしまった」と新シーズンの悪循環を引き起こしただけ。マグレで78ホールにわたる激闘を勝ち抜けるわけは無い。ただ、悲願の1勝で、未熟な部分には自然と目が向かなくなっていた。
しかし「いまは、僕はそんな選手じゃないと思うようになった」と言った。このフジサンケイクラシックとは縁がある。東京都出身だが12歳のときから20代中盤まで山梨県に在住。3年前、ローカル競技の「山梨県オープン」を制して同大会の出場権を獲得し、15位タイの成績を残した。コース関係者はほとんどが顔見知り。次々と応援に駆けつける知人は増え「ここに帰ってくるとホームだなと思える」。
トップとは2打差と好位置で決勝ラウンドに進んだ。だが「まだまだ優勝を意識するようなゴルフではないので、ちょっとずつ、ちょっとずつ、この試合をきっかけに後半戦を頑張りたい」と身の丈にあった戦い方を続けるつもり。シンデレラボーイにかけられた魔法は解けてしまったけれど、等身大の自分の姿は取り戻した。(山梨県富士河口湖町/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw