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1打と1分が同じ価値 「スピードゴルフ」はゴルフなのか?

2018/12/08 12:22
スピードゴルフで大会5連覇中。日本の絶対王者、松井丈さん

「スピードゴルフオープン2018」が12月2日(土)、茨城県のワンウェイゴルフクラブで行われた。

「10、9、8…」とカウントダウンが始まる。「スタート!!」の合図とともにティショットを放つと、4、5本のクラブが入ったキャディバッグをつかんだゴルファーが勢いよく走り出す。18ホールのスコアとプレー時間の合計(※スピードゴルフスコア=SGS)で競うスピードゴルフは、普段のゴルフを見慣れた目にはちょっとした衝撃だ。

プレー中は旗竿を抜かない(グリーン上もそのままでパットをする)。OBはその境界を最後に横切った地点、紛失球は紛失したと思われる個所から、1罰打でカップに近づかずに2クラブレングス以内にドロップする。多少の違いはあるものの、基本的には18ホールを通常のゴルフルールでプレーする。

道中は苦労しながらもホールアウト時はこの笑顔

プレー時間は速い人だと50分を切る。初心者や走るのが苦手な人でも90分もあれば完走できる。スピードゴルフのカギは「1打=1分」という設定。たとえばスコアが「85」、プレー時間が「60分」ならば、SGSは「145」になる。ゆえに球の捜索に1分以上かけるのは損。バンカーに入れると、ショット後に砂をならす時間と体力が必要になり、ダメージが大きい。ほとんどの選手が残り距離は目測、パットのラインは直感で決め、素振りもせずに打っていく。

今回がスピードゴルフ初挑戦だった俳優のケイン・コスギさんは「ゴルフとはぜんぜん違う」と大粒の汗を流しながら、「これはクロスフィットですね。ずっと動きながらやるトレーニング」と、その過酷さに驚いていた。

全体でも3位というSGSで回った宮崎千瑛さん

大会5連覇(!)を達成した松井丈さんは「走れないとスピードゴルフはきついだけ。まず走れることが大事」という。だが、松井さんレベルになると「ゴルフが95%。それにプラスアルファでちょっと走るくらいの感じでやっています」と、かなりゴルフ要素が強くなる。

女子アマチュアの部で優勝した宮崎千瑛さん(国際基督教大4年)は、通常のゴルフと比べて「充実感はぜったいこっちの方がある」と笑顔をはじかせた。「普通のゴルフだとメンタル的にドヨーンってなっちゃうこともあるけど、スピードゴルフだと3パットしても落ち込んでいる暇もない」と精神面の違いも指摘した。

プロにとってはルーティンが違いすぎる?初挑戦の中山三奈プロ

一方、プロゴルファーの中山三奈は「しっかり準備をして、ここに打つと決めてやるのがプロのやり方。いつものリズムとまったく違う」と、超速のプレーペースに戸惑った様子。「あっという間で、18ホールをプレーした感じはないですね。看板を見て『もうこんなホール?』みたいな」と、苦笑いで初挑戦を振り返った。

“究極のプレーファスト”であるスピードゴルフを、石坂信也・日本スピードゴルフ協会会長(ゴルフダイジェスト・オンライン社長)は「ゴルフの原点回帰」ととらえている。「考える時間やあらゆる儀式が、ゴルフを複雑に難しくしている。ハーフを回ってご飯を食べたり、球の線をラインに合わせてパットしたり…」。そんなぜい肉をそぎ落としていくと、パッと見て、決断して、すぐに打つ、というゴルフの原点に立ち返るという考え方だ。

ちりとりを元に、オリジナルのクラブホルダーを自作する選手も

思い出してみてほしい。みんなが初めてコースに出た頃、こう言われたことはないだろうか?「クラブを2、3本持って、とにかく走れ!!」と。

中山は「ジュニアの頃は走っていた」と回想する。日没前にホールアウトするために、少しでも前の組から遅れるとコーチに「走れ!!」と怒鳴られたという。石坂会長は「現在の競技人口は数百人。だけど、隠れスピードゴルファ―は1万人以上いると思います」とおどけながら胸を張った。

宮崎さんは「ゴルフは1日使うけど、スピードゴルフならプレー後に午後の授業を受けることもできる」と手軽さを利点に挙げた。課題はまだスピードゴルフに対応しているゴルフ場が少ないこと。早朝や薄暮にプレー枠ができれば、競技人口は増えていきそうだ。(編集部・今岡涼太)

■ スピードゴルフオープン2018 主な成績(敬称略)

男子プロの部 優勝 松井丈 Score:81、Run:0:48:49、SGS:129.49
男子アマの部 優勝 袖山哲朗 Score:82、Run:0:53:22、SGS:135.22
女子プロの部 優勝 中山三奈 Score:83、Run:1:15:25、SGS:158.25
女子アマの部 優勝 宮崎千瑛 Score:77、Run:1:00:57、SGS:137.57
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■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka