30歳からゴルフを始めた異色の賞金王 寺西明のルーツをたどる<前編>
代表取締役の肩書を持つシニアツアー賞金王。寺西明ほど異色のキャリアを歩み、成功に至ったプロゴルファーはいないのではないだろうか。30歳から本格的にゴルフを始め、地元の兵庫県で起業。49歳でプロテストに合格し、54歳で賞金王に上り詰めた。「すべてがゴルフに通じていた」と言う、その半生を振り返る。
ゴルフに興味のない野球少年
―子供の頃に打ち込んでいたスポーツは?
「小学校時代は野球に取り組み、空手も習いました。ゴルフには全く興味がなく、野球のバッティング練習の延長で、近所の打ちっ放し練習場に出向いていたくらいです」
―当時からゴルフの才能は感じていた?
「いいえ。最初はスライスが出て、こうしたらフックが出るみたいなことを独学で探り当て、見よう見まねでスイングを覚えました。覚えたといっても、内心ではゴルフの何が楽しいのか半信半疑の状態。野球のボールよりもパーンと飛ぶ爽快感だけを味わいたくて、ひたすら打ち続けました。気づけば球は真っすぐしか飛ばず、周りのおじさんから『プロになれ』と言われていましたが(笑)」
ビリヤードで鍛えられたメンタル
―中学卒業後は?
「家が貧乏という理由で、中学卒業後は高校には通わず、鉄関係(溶接)の仕事を始めました。会社員になった当時、たまたまビリヤードブームが起こり、遊びで始めたものの元来凝り性だったからか、プロ級の腕前に上達するほど打ち込みました」
―ビリヤードとゴルフの共通点は?
「止まっている球を打って転がすという点で、共通点は多いと思います。広いコースで行うゴルフとは違い、ビリヤードは四畳半ほどの空間でしのぎを削るスポーツ。相手の良し悪しも大きく結果に影響し、シビアさはゴルフ以上だったように思います」
―ゴルフよりもシビア?
「一概には言えませんが、自分でいくらでも挽回できるゴルフとは違い、相手の調子が良ければ出番すら回してくれません。ようやく自分の順番が回ってきたタイミングで、調子を押し上げられなければ負け。メンタル的には、ゴルフ以上のシビアさだったと思います」
ゴルフに打ち込んだ理由とは
―ビリヤードからゴルフに移ったのはいつ?
「28~29歳のときに仕事に集中しようと、夜遅くに集まるビリヤードは諦めて打ち込んだのがゴルフ。同じ頃、溶接業の会社をスタートさせ、会社経営と並行してゴルフに熱中していきました。我々のような中小企業は普通、上場企業の方に名刺を持って行っても見向きもされませんが、ゴルフの話をすれば、すぐに近づくことができます。ゴルフの腕前が上がれば上がるほど、『寺西さん教えて』『一緒に回ろう』と輪が広がっていきました」
―ビジネスとゴルフの共通点は?
「ビジネスでもゴルフでも、自分が率先して動かなければ、何ひとつ動き出さないということ。30歳で起業した会社は、いまや約150名の従業員に支えられる企業に成長しました。彼ら彼女らの上に立つ責任感を常に持ち続けてきましたし、男としての役割や頼られる幸せはいまでも感じています。それはプロゴルファーの立場でも同じこと。置かれている立場や背景は、アマチュアのそれとは全く違うと言ってもいいでしょう」
―全く違う部分とは?
「プロが試合で打つ一球一球は、“責任ある球”として表れるもの。仮にアマチュアに負けたとしても、その覚悟や背負っているものは、明らかに違います。それだけプロとして、ゴルフをしている者の気概や責任感は、計り知れないものがあると思うのです」
野球、ビリヤード、ビジネス――歩んできたすべてがゴルフにつながると語る寺西。何ごとにも積極的に取り組む姿勢や、その時々で置かれた立場での強い覚悟があってこそ、点と点が結びつく異色のサクセスストーリーが生まれたのではないだろうか。(編集部・内田佳)
《後編「ゴルフの常識を疑う」に続く》
取材協力/シャトレーゼヴィンテージゴルフ倶楽部