2022年 全米オープン

フィッツパトリックがビリーと出会った日

2022/06/21 11:05
うれし涙を流すキャディの肩を抱く

2022年「全米オープン」でのマシュー・フィッツパトリック(イングランド)の勝利は、「全米アマチュア選手権」王者からメジャー王者への道のりを描いたストーリー以上の意味合いがあった。

DPワールドツアーで最もその名を知られたキャディの一人として40年のキャリアを築いてきたビリー・フォスターにとってのメジャー初勝利でもあった。

このイングランド人は、偉大なる故セベ・バレステロスのキャディとして有名になったが、それ以来、トーマス・ビヨーンダレン・クラーク、そしてタイガー・ウッズといった選手たちと仕事をしてきた。

ここまでの力量の選手たちであれば、彼がこれまで何度も惜しいところでメジャー制覇を逃してきたのは驚きではない。だが、4大メジャーで勝利の美酒を味わうには、ブルックラインのザ・カントリークラブでフィッツパトリックが最終ホールをパーとし、ウィル・ザラトリスの18番でのバーディパットがカップをすり抜けるのを見届けるまで待たなければならなかった。

フィッツパトリックの勝利が確定したとき、そこには記憶に残るシーンがあった。初めはフォスターの方が、ヨークシャー出身の相棒よりも感情を露わにしていたのである。18番のフラッグにキスをすると、フォスターはメジャー王者のキャディとなる意味について説明した。

「信じられないほど感情的になった。40年キャディをやってきたけれど、私はとても幸運だった」と言って、こう続けた。「私はこれまでゴリラ級の重荷を背負ってきた。モンキーなんてものじゃなかった(編注:monkey on one’s back=厄介な重荷を背負う)。これは大きな意味を持っている。ウェスティ(リー・ウェストウッド)、ダレン・クラーク、そしてセベには皆(メジャー制覇の)チャンスがあったし、トーマス・ビヨーンにもサンドウィッチ(2003年「全英オープン」開催地)でチャンスがあった。それらの時、私は6カ月間、毎日そのことについて考えていた。私の心は打ち砕かれたんだ」

「でも、この勝利で多くの悪い記憶は一段落ついた。これは私にとって全てを意味するんだ。これまで、常に彼はメジャーで十分勝てると思ってきた。今週は信じ難いゴルフをプレーした。そして、パットが最高の調子ではなかったことが全てを物語っている」

2018年にタッグを組んで以来、フィッツパトリックとフォスターは、2020年「DPワールドツアー選手権」でロレックスシリーズのタイトルを取り、世界最高のコースの一つであるレアルクラブバルデラマでは、2021年に「アンダルシアマスターズ」を制している。

そして今、2人はメジャー制覇を祝うこととなり、27歳のフィッツパトリックは、はっきりとフォスターのために喜びを示した。

「これはビリーにとって全てを意味するんだ」とフィッツパトリック。「これがビリーにとってどれだけ多くを意味するかは、僕にも言えない。信じられないね。僕には、これは彼が本当に長い間、欲しがっていた物だということは分かっている。それを今日達成できたのは、信じられないくらい素晴らしいこと」

「僕らは成り行きで一緒に仕事をし始めたんだ。キャディとキャディのつなぎみたいな感じでね。彼はリーと袂を分かったばかりで、ちょうど良い具合に物事が進んだんだ」

「とても面白いことにね、彼は初めて一緒に仕事をした時から、自分は25週だけやって、あとは他の選手のキャディの臨時の代役をやっていくって言い続けてきたんだ。確かあの時、彼は4年ぶりに2週間の休みを取ったところだったと思う」

「彼は大きな役割を果たしてくれた。一日中落ち着いていたし、僕にはこれが彼にとってどれだけ大きな意味を持っているか知っていたから。キャリアの長さを考えると、この勝利は、僕にとってというよりも、彼にとっての方がより大きな意味を持っているかもしれない」

「僕は彼が大きなモンキー(重荷)を背負っていたのを知っていたし、それは彼を蝕んでいたので、自分自身のためだけではなく、彼のためにも、これを達成できて最高だね」

フィッツパトリックと彼のチームが、いかにフォスターを高く評価し、尊重しているかは、フィッツパトリックの父、ラッセルが息子の偉業について問われた際、即座に話題をキャディに移したところにも表れている。

「(うれしいのは)マットのためだけではないんだ。本当にね」とラッセルは言った。「私はビリーがやり遂げたことについて、とてもうれしいんだ。40年キャディをやるなかで、常にメジャーで勝ちたいと思ってきた。彼はそれをやり遂げたのだが、彼以上にこの勝利に値する者はいない。彼はこの業界のベストであり、我々は彼と組むことができて幸運だった」

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