2022年 全英オープン

“死ぬまでにやりたいことリスト”に入れたいゴルフの聖地プレー/小林至博士のゴルフ余聞

2022/06/28 18:05
セントアンドリュース オールドコース

「バケットリスト(bucket list)」という言葉をご存じだろうか。死ぬまでにやりたいことリストのことである。ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン主演の「The Bucket List」(2007年、邦題は「最高の人生の見つけ方」)は、まさにこのバケットリストを題材として製作された映画である。

今年7月の「全英オープン」の会場であるセントアンドリュース・オールドコースは、世界中のゴルファーがバケットリストに入れているコースとして知られている、憧れの聖地である。私もその一人で、まだプレーする機会は得ていない。

それっぽい雰囲気を味わったことはある。1909、20年の2度、全英オープンが開催されたロイヤルシンクポーツ・ゴルフクラブである。あれは2004年8月、海辺特有の蒸し暑い日だった…。ロンドンから車で東へ2時間、ドーバー海峡に面した海岸線沿いのそのコースは、高い木はなく、灌木と膝ぐらいまでに伸びた草が揺れ動いている、荒涼とした、まさにリンクスだった。

2004年8月にかつての全英会場、ロイヤルシンクポーツGCでプレーした筆者(提供:小林至氏)

ラウンドはのっけからつまずいた。受付(支払い)をしようと質素なクラブハウスに入ると、初老の男性スタッフから、短パンをはくならハイソックスを着用せよとの指摘を受ける。すでに複数の本場リンクスをプレー済みの友人からは、「イギリスのコースは服装に寛容で、オールドコースだって短パンでいけた」と聞いていた私は動揺した。

観光客なので良い思い出にしたい、何とか見逃してくれ、と懇願するも取り付く島なし。ハイソックスを買うか、天気が急変することもあると聞いて持参してきた重厚なチノパンにするか。全英オープン開催会場のローテーションから外れているのに、お高くとまりやがって、こんなところで買ってやるものか、という幼稚な反発心もあいまって、私は後者を選択した。

出だしは良かった。ティショットは着地後、フェアウェイを走ること走ること、350ヤード先にあるグリーン手前の小川にポトンと入ったのを目視。1ペナだがこれだけ飛ぶと悪い気がしない。そして小川越えのピッチショットが直接カップイン、パー発進である。

英国・ロイヤルシンクポーツGC(提供:小林至氏)

しかし、良かったのはここまで。まず、フェアウェイをとらえたはずのボールがない。地面が硬いうえに、自然の傾斜、コブがそのままで、どちらに転がったのか全く分からないのだ。そして、ラフに転がり込んだら最後、膝の高さまで草が密集しており、捜索不可能だ。吹きさらしの海辺の風も強烈で、高弾道のショットはブーメランのようにボールは曲がり、ラフにドボン。ボールはどんどん消えていく。ただし、ラフにはロストボールがそこかしこに“埋蔵”されており、“補給”は容易で、ラウンド途中からは、拾っては打つを繰り返し、ボールはなんとかなった。

なんともならなかったのは水分補給である。コース内には、給水設備も自販機もなかった。酷暑とボールの捜索で、ハーフも終わらないうちに、持参したペットボトルの水は底をついた。オールドコースと同じく、折り返しはクラブハウスから最も遠い海岸線にある。水くらいしっかり用意しとけよ、というなかれ。同クラブは、電動カートの使用が許可されていないためバッグを担いでのラウンドで、軽量化も重要事項だったのだ。

あの時の、ねっとり吹き付ける潮風に晒されながらの絶望感はいまも忘れない。後半は、とにかくクラブハウスまでたどり着こうと、友人と励まし合いながらの“行軍”となった。同クラブは、ロイヤルセントジョージズGC(昨年を含め全英オープン15回開催)と目と鼻の先の距離に立地。全英オープンのローテへの復活はなさそうだが、同大会の最終予選や全英アマなどの会場にはしばしば選ばれており、イギリス屈指の難関リンクスコースであり続けている。(小林至・桜美林大学教授)

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