コロナ禍とは無縁? PGAツアーのスポーツ・ベッティング
米国PGAツアーの新たな取り組みが、スポーツビジネス関係者の間で話題になっている。ライブ中継にオンラインカジノ運営会社BetMGMが提供するオッズを組み込んだのである。BetMGM社は、世界最大級の統合型リゾート(IR)運営会社MGMの子会社だ。ラスベガスでベラージオ、MGMグランドなどを運営しているあのMGMといえばピンとくる方も多いだろう。日本のIRへの参入を強く希望し、日本支社を設立もしている。
同社は、8月にPGAツアーと公式ベッティング・オペレーターとして複数年契約を結び、前々週の「ザ・CJカップ」のライブ中継のテレビ画面にオッズを組み込んだ。株式市況の番組や競馬のように四六時中、テロップで流れるものではなく、1時間に2回、受け付け中のベッティングとオッズが画面に挿入され、希望者は同社のウェブサイトもしくはアプリをダウンロードしてどうぞ、というわけだ。
BetMGMのサイトを覗くと、実に様々な賭けが用意されている。たとえば、「ザ・CJカップ」3日目終了時点で表示されたのは、優勝者のベッティングで、トップのラッセル・ヘンリーのオッズが2.5倍、3打差で追う2位タイのザンダー・シャウフェレが4.33倍で、同じく2位タイで最終日に「64」をマークして逆転優勝したジェイソン・コクラックは11倍だった。
スポーツ・ベッティングのオッズは、競馬のように需給で自動的に決まるものではなく、需給も踏まえアルゴリズムを駆使して算出されるのが通例だが、これもそういうことなのだろう。5位以内、10位以内などの“複勝”や、優勝した選手の最終日のスコア(「68」以下なら2.2倍、「72」以上なら3.5倍…)、1番ホールでバーディなら5.5倍といったものもある。試合中は、このオッズが刻々と変わるのに加え、ホールごと、ショットごとに賭けが用意され、最終日がどのように展開しても最後の瞬間まで賭けに興じることが可能な仕組みである。
実は、このように試合を見ながらスマホでポチッとやる“watch&bet”は、アメリカにおけるスポーツ観戦の日常になりつつある。というのも、アメリカでは、2018年にスポーツの試合を対象としたベッティングを禁じる連邦法(PASPA、1992年に成立)は違憲であり、判断は州に委ねられるという判決が下されたのだ。
合法化されたのは、スポーツ・ベッティングが、全世界で330兆円(国連犯罪防止刑事司法会議による)という、日本のGDPの60%に相当する驚異の市場規模に成長していたからである。合法化して課税したほうが現実的であるという判断で、解禁されて以降、スポーツ産業における話題も投資もベッティング一色となっていたところにコロナ禍が拍車をかけている格好である。ベッティングは三密とは無縁である。
日本を除く世界のプロゴルフにおいても、ベッティングへの適応こそがビジネスの成否を分けることになるだろう。折をみてまた報告したい。(小林至・桜美林大学教授)