中山三奈「24時間ゴルフ」挑戦手記
「24時間の最多バーディ数」でギネス世界記録を目指し、夜も太陽が沈まないフィンランドへ。塚田好宣プロとともに24時間を完走した中山三奈プロが、過酷な挑戦を終えて思いをつづった。
この24時間は私の人生の中で一番心に残る体験、そして経験でした。
はじめに、GDOスタッフの皆様、カメラマンの皆様、サンタクロースゴルフ様、ボランティアの皆様、ギャラリーの皆様、トレーナーの田中佳成さん、同時におなじ経験をした塚田好宣プロ、その他スタッフの皆様、本当にありがとうございました。
最初にこの企画を聞いたとき、ものすごく心がワクワクした自分がいました。こんな機会はないと思い、フィンランドに行ってギネス世界記録に挑戦することを決めました。
24時間プレーをして、144個以上のバーディを獲れたらギネス世界記録に認定されるという条件。最初は未知の世界で、その数がどうなのかもわからなかったです。どのようにプレーをしたら良いのか、1ラウンドにどのくらいの時間がかかるのか、1ラウンドに平均何バーディが必要なのか、出発前にたくさん作戦を考えました。
でも、実際24時間のプレー中は何が起きるかわからないし、自分の身体やマインドがどう変化するかもわからない。だから良いパフォーマンスをキープして、その時の状態、状況によって臨機応変に対応していこうと決めました。
いよいよ出発の日。初めてのヨーロッパ。緊張感もなくとてもリラックスした状態でフィンランドに入ることができました。最初にロヴァニエミ空港に降り立った時、なんて綺麗な空と景色、そして空気なんだろうと感動しました。空港からそのままゴルフ場に入り、どんなコースなのか18ホールを見てまわりました。思っていた以上にトリッキーでアップダウンもあり、正直バーディが獲れるのかな?と不安になりました。
翌日、1ホールずつ距離を決め、カップ位置をどこにするかを塚田プロと話し合いながらコースチェックをしました。コースの状態はすごく良かったのですが、グリーンだけが今年はあまり良くなくて、カップ位置を決めるのに少し苦労しました。女子は5600ヤード以上の設定をするルール。各ホールの距離を決めるため、こんなに1ホール1ホール攻め方を考えたのは初めてだったかもしれないです。
そのあと練習をしながらの1ラウンドと、タイムを計りながらの1ラウンド。計2ラウンドの練習を終えてホテルに帰ってきたのは22時頃でした。コースチェックをしていたときよりも、もっとバーディが獲れるのではないかな?と期待している自分がいました。
正直144個が可能なのかわからない。でも自分の口から「厳しいかもしれない」というマイナスな言葉は絶対に発したくなかったです。やってみないとわからない。翌日に向けてみんなが本気でした。
当日の朝、初めて緊張している自分がいました。いつも通りにウォーキングに行き、朝食をとり、シャワーを浴び、出発に向け準備をしました。24時間プレーをし続けるのになにが必要なのか、白夜の中のプレーはどのくらい寒いのか、なにもかもが初めてだったので万全の状態でいきました。
ホテルを出発し、ゴルフ場に向かう途中トナカイに遭遇する事ができました。きっと良い日になるなと思いました。
ゴルフ場に着き、まずケアとアップをしてから、コースを見に行きました。ゴルフ場スタッフの皆さんが朝から綺麗に芝を刈り、グリーンにローラーをかけ、とても良い仕上がりになっていました。
いよいよ開会セレモニーが始まり、正午と同時に塚田プロがスタートしました。私のスタートは塚田プロの15分後。時間が迫ってくるにつれ、緊張感も増してきました。24時間プレーをするけど、やっぱりスタートは緊張しましたね。さぁ、私のスタートに向けてカウントダウンが始まりました。3、2、1…いよいよ未知の世界へスタートです。
最初はペース配分やキャディさんとのタイミングをとるのが難しく、焦りもあり、なかなか落ち着いてプレーすることができませんでした。ですが、ラウンド数を重ねていくごとにテンポも良くなり、スムーズにプレーでき始めました。
最初は2ラウンド毎に5-10分程のケアをしてもらいながらプレーをしていましたが、身体とマインドの状態をクリアにするため、途中から1ラウンド毎に切り替えました。このケアがなかったら、私は24時間プレーし続けることは難しかっただろうと、あとから実感しています。
時間が経つにつれて、芝が伸びてグリーンスピードが遅くなる。気温が下がり、湿ってくると飛距離も落ちる。朝になって温度が少しずつ上がるにつれ、露がでて、グリーンスピードはさらに遅くなる。24時間プレーし続けないと、一日でこんなにも変化するなんてわからない。貴重な体験をしているんだなと思いました。
たくさんバーディが獲れたラウンドもあれば、1つしかバーディが獲れない時も…。正直叫びたくなった。いや、叫んでいたかも(笑)。「パーはいらない、バーディが欲しいんだ!!」って。
自分がいま何個バーディを獲っているのかもわからないまま、1ホール1ホール、バーディを狙って消化し続けました。途中、このままのペースでは記録達成は厳しいかもしれないと思ったとき、心の中で悲しさ、悔しさ、いやまだいける、諦めない、と複雑な気持ちが入り交じりました。
白夜に入った頃、気持ちが悪くなったときがありました。カートに乗ってガソリンの匂いを嗅いで車酔いをしたのかと思った。でも実際は、首の冷えによる症状だとトレーナーさんに告げられました。日中の気温は30℃近くまで上がり、夜は10℃まで下がった。約20℃の寒暖差に身体もビックリしたのかな。持ってきたカイロを貼り、ダウンを着て、気分が徐々に回復しました。
日が高くなるにつれて聞こえてくる鳥の声や、景色の変化。ずっと同じ18ホールをまわっているのに、毎回違ってみえました。コース内でトナカイにも遭遇できた。
残り時間が少なくなって、ギネス記録の144個は厳しいかもしれないと自分の中で判断したときは、とても残念な気持ちになりました。でもやるからには最後までバーディを獲りにいこうと心に決め、気持ちを切り替えました。
コース内にはスタート時から、たくさんのギャラリーさんが来てくれて、親指を立ててみんな笑顔で「頑張れー!頑張れー!」といってくれて、とても嬉しい気持ちになりました。
若い男の子が自転車に乗って、夜の11時頃までついてまわってくれたんです。私のボールを追い、探し、バンカーまで均してくれてとても助かったし、癒やしになりました。その子が朝、また戻ってきてくれた時には本当に嬉しくなりました!
練習ラウンドの時から私たちの練習を優先して笑顔で対応してくれるフィンランドの方達をみると、なんて良い国なんだとフィンランドが大好きになりました。
残りのプレー時間が少なくなるにつれ、身体は全身筋肉痛のようになり、足の指先も痛くなり、走ることが厳しくなってきました。少しプレーのテンポを落としつつ、まわり続けました。
残り時間45分とスコアラーさんに告げられた時、またスイッチが入りました。いけるところまで全力でバーディをとりにいこうと、重かった脚がまた軽やかに動き始めました。
残り時間がどんどん迫ってくる…。19ラウンド目を終え、また1番ホールに向かう。あと3ホールはいきたい、と全力でプレーしている自分がいた。まだいける。4番ホールを終えた。残り2分あるかないか。5番ホールのティグラウンドまでは少し遠い。ギリギリ残り20秒でティグラウンドに着いた。5番ホールのティショットを打ったところで、24時間の挑戦が終わった。終わったと同時に私は芝生に寝転がった。あぁ、やりきった。と。
でも、振り返ると24時間はあっという間だった。眠くなることも少なく、あくびを1度したくらい。こんなに自分とゴルフに向き合えた時間。すごく貴重な体験だった。結果は75個のバーディ。このままじゃ悔しいから、また挑戦したいと思いました。
挑戦の翌日、身体の状態はとても良く、24時間プレーしたとは思えないと自分もトレーナーさんもびっくりでした。帰国前にホテル近くのスーパーでレジに並んでいたら、男性の方が来て「良く頑張ったね!」と声を掛けてくれました!ビックリしたのと同時に、すごく嬉しかったです。
この挑戦をやり遂げた自分を誇りに思います。そして、スタッフの皆さんの支えに改めて感謝いたします。ありがとうございました。
文・中山三奈