「ピンチはチャンス」出口慎一郎キャディ/いまどうしてる?
新型コロナウイルスの影響でツアーが相次いで中止となり、プロのみならず、キャディもまた職場を失っている。そんな状況でもポジティブに邁進する。キャディとして男子ツアーで通算3勝の出口(いでぐち)慎一郎氏(36)はいま、ジュニアの指導を通じて着実に成果を上げている。
3月中旬と下旬の2回、愛知県瀬戸市の品野台CCで小学生から高校生までのジュニア、延べ9人にラウンドレッスンを交えて指導した。2018年に取得したスポーツメンタルトレーナーの資格を生かし、今年から本格的に始めた。最初のレッスンを受講した女子2人は、翌日の大会で優勝したという。
集中力を高める呼吸法などの「ルーティン」、ショットをどこに打つかなど「イメージ力」がいかに重要かを教える。例えば、昨年の国内男子ツアー。賞金ランキング1位の今平周吾の平均ストロークは69.73。30位の選手が71.44で、その差は1.71。「1ラウンドあたり1打か2打の差で(賞金総額は)何億円と変わる。技術面はもちろんですが、勝負どころにおけるメンタルの要素が大きい。日本のメンタルトレーニングはここ4、5年の話で、アメリカとは30年の差がある」と説く。
コースマネジメントもアドバイスした。イメージ通りの1打なら1点とスコアをつける「メンタルスコアカード」。実際のスコアは同じ「72」だったとしても、ある選手はメンタルスコア「72」で100%の実力を発揮、別の選手はメンタルスコアが「67」で納得できないショットが5回あったという結果になり得る。キャディによるラウンド指導は珍しいが、「人と違うことをしたい、人がやっていないことをしたい」と情熱を傾ける。
勤務していたゴルフ場のキャディマスター時代の親交が縁で、2011年にツアーキャディに転身した。13年から14年にかけての1年間に女子ツアー39試合で30人を担当し、「人間的な癖を見て自分の対応力がついた」。17年「ISPSハンダ マッチプレー選手権」で片山晋呉のバッグを担いでプロキャディとして初優勝。同年「マイナビABCチャンピオンシップ」は小鯛竜也、18年「フジサンケイクラシック」で星野陸也と、それぞれの優勝を支えた。
今年は2月の「WGCメキシコ選手権」で、石川遼の帯同キャディとして始動した。国内男子ツアーは開幕から2戦、チャン・キムと組む予定だったが、いずれも中止に。国内女子ツアーでは「明治安田生命レディス」で原英莉花、「Tポイント×ENEOS」で工藤遥加、「スタジオアリス」でホステスプロの堀琴音のキャディを予定していた。ツアー中止で「個人事業主なので収入源がなくなるのはきつい」
それでも、「こういう状況で試合がいつあるか分からないが、だからといって体調を崩したら意味がない」と自宅では最低限のトレーニングを欠かさない。スポーツメンタルトレーナーの知識を深めるため、脳科学の勉強もしているという。「この機会だから本を買いだめして読んでいます。ピンチはチャンス。いまだからできることをと思って動いている」。ツアー再開が不透明のなか、5月にはジュニア向けのトークイベントを予定するなど意欲的に取り組んでいる。(編集部・清野邦彦)