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異次元プレーを生みだす松山英樹の日常と素顔

米ツアー4年目のシーズンを最高の形で滑り出した松山英樹。その素顔とは

◇世界ゴルフ選手権◇WGC HSBCチャンピオンズ◇シェシャンインターナショナルGC(中国)◇7266yd(パー72)

「これ“小さな巨人”って言うんですよ」

遠征中の米国のホテルに併設されたフィットネスジム。松山英樹が指し示したのは、飲料水が入った500mmlあまりのペットボトルだった。ほかの利用客がいない一室で「きょうは、空いてるからいいなあ」とつぶやく。ストレッチの後、軽快な音楽に乗せてランニングマシンを滑らせると、トレーニングに特化した一日は静かに始まった。

松山は今大会で、日本勢最多タイとなる米ツアー3勝目を、アジア出身選手として初めての世界選手権(WGC)制覇という快挙で飾った。

もう1年以上前の、ある朝の光景だ。2014年からサポートを受ける飯田光輝トレーナーの指導のもと、ランニングマシンと自重を使ったあらゆる動作を交互に行う、サーキット・トレーニング。走る、身体に負荷をかける、また走る。その繰り返し。酸素を求めて息はあえぎ、疲労をため込んだ肉体が硬直していくのが分かる。

ペットボトルを使ったトレーニングも、メニューのひとつ。さんざん身体をいじめ抜いた後、フロアに置いたボトルを倒さないよう前後左右にジャンプを繰り返す。高さ20cm足らずの容器は、いつの間にか“巨人”のように立ちはだかる難敵になっていた。

ラウンドスタートの3時間半前に起床し、ホテルの自室やジムで始めるウォーミングアップ。午前7時のティオフなら3時半に目を覚ます。およそ1時間半、たっぷりと汗をかいてからコースへ。ジムのマシンが早起きシニアたちの社交場となっている朝は、まだ薄暗いホテルの玄関先がトレーニングの場に変わる。松山は米ツアーに参戦した2014年の初めからこれまで、このルーティンを崩したことが一日もない。大会前のプロアマ戦や練習日も同じだ。

欠かすことのない日々の肉体づくり。その一番の目的について、松山は「ケガをしたくないから」と即答した。2年前、左手首の故障に苦しんだ記憶がある。パワーアップして飛距離を伸ばしたり、スイングの安定感を生む身体の軸を強化したりする狙いはその先の話だ。

飯田トレーナーは言った。「先週のマレーシア(CIMBクラシック)でね、英樹より先にジムにいたのがビジェイ・シンとKJ(チェ・キョンジュ)さんだった。長くやれる選手こそ(トレーニングを)やっている」。コース上のダイナミックなプレーを下支えする膨大な練習量。それを、地味で平凡な身体作りが支える。欠かさず、続ける。そのモチベーションをあおるのは、世界最高峰の米ツアーで日々刺激されている危機感かもしれない。

昨秋のある日、時差ボケで予定よりも数時間早く目覚めた深夜。松山はベッドの中でスマートフォンに触れ、動画サイトでキーワードを打ち込んだ。「タイガー・ウッズ トレーニング」「ロリー・マキロイ トレーニング」。画面の中の彼らを見て不安になり「ヤバイ、俺もやらなきゃ…」と、いてもたってもいられなくなったという。

チーム松山。進藤大典キャディ(右)と飯田 チーム松山。進藤大典キャディ(右)と飯田光輝トレーナー(左)

10月半ばの「日本オープン」で優勝、翌週の米ツアー「CIMBクラシック」で単独2位、そしてWGC制覇。3大会で得た賞金はそれぞれ4000万円、75万6000ドル(約7900万円)、162万ドル(約1億6941万円)。わずか3週間で2億9000万円近くを稼いだ。

2013年4月のプロ転向から、わずか3年半のキャリアで獲得賞金は日米通算で17億円に迫る。スポンサー契約料を含めれば、その額にとどまらない。文字通りの億万長者。だが、その生活感覚はどうだろうか。

ゴルフのためなら200万円以上する弾道計測器の購入も、移動による心身のストレスを軽減するチャーター機の利用も、出費は惜しまない。一方でゴルフを除けば、24歳の素顔は意外とフツウ。

「アメリカだと朝ごはんに米を食べる習慣がないみたいで」。遠征中の宿舎には炊飯器を持ち込み、部屋で米を炊く。ラウンド中に食べるおにぎりの多くは、サポートチームのスタッフが握るが、ときには自らこしらえるのもいとわない。今大会も、選手宿舎に指定された高級ホテルの食事がいまひとつ口に合わないと感じた日には、電子レンジで「チン」したレトルトのご飯で腹を満たした。「マスターズ」でローアマチュアを獲得した2011年の春と同じ。日本に帰れない時期に髪が伸びれば、自らハサミで散髪したこともある。

今年の初め、松山はチームスタッフの誕生日に移動用のリュックサックをプレゼントした。悟られぬよう、ひとり米国のモールでスポーツショップを5、6軒めぐり選んだ。「どういうのならいいかなと思って、迷ったすよ。自分は買い物が苦手だから…」。ゴルフから離れたときの生き方は武骨で、不器用にも映る。

世界のトップグループの一員であることを知らしめた上海での戦い。後続に7打差をつけたゴルフは、周囲があきれるほどの異次元だった。その下地は、けれんみも、飾り気もない日常で作られている。(編集部/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち)
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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