2021年 AT&Tバイロン・ネルソン

松山英樹も「別格」とうなったアマ時代 イ・キョンフンの夢を追う覚悟

2021/05/18 09:10
妊娠中の夫人と優勝を喜ぶイ・キョンフン(Matthew Stockman/Getty Images)

「AT&Tバイロン・ネルソン」でPGAツアー初優勝を飾ったイ・キョンフン(韓国)。米国でシードを手にしたのは2019年でしたから、僕の中では日本ツアーで戦っていたときのことが記憶を占めています。

人懐っこい笑顔であいさつをしてくれる姿が印象的。歌うことが大好きで、プロゴルファーになるか歌手になるか悩んだほどだったとか。日本語も堪能なお父さんが付きっきりで転戦をサポートし、一人息子を大事にしている様子も伝わってきました。

ツアー仲間に聞いても「怒っているのを見たことがない」と口をそろえる好青年。ソフトな雰囲気をまとう一方、選手としては二十歳そこそこだった当時から“本格派”のにおいがこれでもかと漂っていました。

イ・キョンフンと松山英樹(写真は2019年「AT&Tバイロン・ネルソン」)

2010年のアジア大会で金メダルを獲得した韓国代表メンバーで、母国の兵役義務も免除された期待の星。同学年にあたる松山英樹選手もアマチュア時代を振り返って「別格だった」と話していたことがあります。砲丸投げで鍛えたという体幹は安定感抜群で、スイングの美しさもピカイチ。よく練習する選手でもありました。

QTトップ通過で参戦した日本ツアーで早々に優勝。15、16年と韓国のナショナルオープンも連覇しました。順風満帆ともいえるエリート街道を歩んできた中での米下部ツアー挑戦は、決して簡単な決断ではなかったと思います。

賞金はむしろ日本のレギュラーツアーより安い傾向にありますし、田舎町での開催も少なくないため移動の大変さだって段違い。日本で戦っていたときのように、お父さんが献身的に支えてくれたそうです。タフな環境で3シーズン歯を食いしばり、最高峰の舞台で戦う資格を手にしました。

雨による中断でも集中力は途切れなかった(Matthew Stockman/Getty Images)

韓国籍の選手で8人目となるPGAツアー優勝。K.J.チョイ(チェ・キョンジュ)に始まり、Y.E.ヤンノ・スンヨルベ・サンムンキム・シウーカン・スンイム・ソンジェ…日本を経由するパターンもありますが、全員がシビアな最終予選会を切り抜けるか、下部ツアーからはい上がってタイトルをつかんだ選手たちです。そのチャレンジ精神こそがチャンスを生み出し、夢をかなえる結果につながっているのだと教えられます。

最終日はリードを持って迎えた残り3ホールで大雨の影響による2時間超の中断。メンタル的にも難しい状況で、圧巻だったのは17番(パー3)。2打差を追うサム・バーンズがチャンスに絡めた後、さらに内側のピンそば1m強につけるスーパーショットでバーディを奪い、優勝をグッと引き寄せました。

豊かな才能に磨きをかけたのは、先人たちにも通ずる異国の地で戦っていくというブレない覚悟。ひとつの目標を達成し、大きな自信になったはずです。また一人、強くたくましい選手が出てきました。(解説・進藤大典)

2021年 AT&Tバイロン・ネルソン