【WORLD】マッチプレーを制すもの
Golf World(2012年5月28日号)
映画「ゴッドファーザー」の中で、テッシオがコルレオーネ一家を裏切ったことが分かる場面をご存知だろうか。テッシオは車に乗り込む前に、相談役であるヘイゲンにこう語りかける。「マイクに伝えてくれ。ビジネス上やむを得なかった。俺はいつも彼びいきだったとな」。ヘイゲンはこう答える。「彼もわかってくれるさ」と。するとソニー・コルレオーネは弟のマイケルに「私怨として受け止めろ」と言って聞かせ、ヘイゲンに向かっても「トム、これはビジネスだが、弟はこれ以上ない程に私怨と受け止めるぞ」と語りかけるのだった。
この光景こそ、アザハラ・ムニョスとモーガン・プレッセルが「サイベース・マッチプレー選手権」で感じたことではないだろうか。
プロゴルフはビジネスだが、ことマッチプレーとなると、非常に“個人的なもの”に様変わりする。実際マッチプレーは、どれだけ仲の良い友人とプレーしようと私怨が絡んでしまう。例えそれが2ドルのナッソーだったとしてもだ。ストロークプレーでは他の多くを相手にするが、マッチプレーでは対戦する1人としか競い合わないのだから。
どれだけ人柄が良い人間だろうと、意地の悪い部分を垣間見てしまう試合形式とも言える。マッチプレーはNBAのプレーオフに似ている。数試合を同じ相手と戦い、互いに激しくやり合うからだ。互いを知っているからこそ厄介で、関係が良くても敵意を感じるようになっていく。
ニュージャージー州グラッドストーンで行われた「サイベース・マッチプレー選手権」最終日に行われた準決勝では、友人でもあるムニョスとプレッセルが対戦した。そしてムニョスのスロープレーにより所要時間の計測に入り、12番ホールではプレッセルにペナルティが科せられた。その後、今度はプレッセルが15番ホールのグリーンで、ムニョスが自分のラインをクラブで触れたと主張。映像で検証を行った結果、ムニョスの反則行為は結論づけられなかった。
「ペナルティが科せらなかったことに失望はしなかったわ」としたプレッセル。「でも、これがゴルフのルールよ。私が3ホール前でペナルティを科されたようにね」と続けた。
プレッセルはペナルティのおかげで3アップとしていたはずのリードを1アップとした。スペイン人プレーヤーにかけられた嫌疑は否決され、結果2&1でムニョスが逆転勝利。決勝でキャンディ・クンを2&1で下し、LPGAツアー初勝利を手にした後、ムニョスは、「私達は良い友人だし、コース上で行ったことはコース上でだけの問題」とした。
そして「彼女との試合が終わった後、とても不安だったの。だって彼女は私の友人の1人で、これからの関係性を変えたくはなかったから」とコメント。準決勝後、ムニョスはコメントと同じ内容のメッセージを即プレッセルにメールで送り、両者は決勝前の練習で顔を合わせた。プレッセルはムニョスに対し「私の為にも勝って」と激励したという。
ムニョスは17番ホールでクンを下すと、そばで観戦していたプレッセルとハグを交わした。それでも全てを水に流すことは出来ず、全てを忘れることも出来ないプレッセルは「彼女の方が間違いなくスローだった」、「私はこの7年で1度も所要時間をオーバーしたことなんて無いわ。今回のようなことになったのは、これまでのキャリアの中でも悪い経験ね」と、後日語っている。
LPGAでは、制限時間に対して特に厳しいルールを設けており、今大会の準決勝でそれが顕著となった。しかしながら、LPGAの対応は賞賛に値するべきで、スロープレーに対して特に罰則を設けていないPGAは現行のルールを恥ずべきだ。直近で最後にペナルティによりストロークを加算されたのは、1995年の「ザ・ホンダクラシック」に出場したグレン・デイ。LPGAでは2008年から現在に至るまで、スロープレーにペナルティを科した例が10もある。
それだけスロープレーは問題視されている。ケビン・ナのことは置いておいて、「ザ・プレーヤーズ選手権」ではリッキー・ファウラー、ハンター・メイハン、タイガー・ウッズが18番ホールをプレーするのに5時間17分もかかったのだ。
マッチプレーの特性とも言えるだろうが、プレッセルはアンフェアともとられかねないルールがしっかりと施行されたおかげで、ペナルティという嵐の直撃を受けた。
プレッセルとムニョスの間で行われたゴルフビジネスは、私怨が絡む問題へと発展した。話は映画ゴッドファーザーに戻るが、ハイマン・ロスはマイケル・コルレオーネにこう語っている。「これこそ自分達が選んだビジネスなのだ」と。ゴルフにおける”ビジネス”で最も施行が難しい問題に頑として対応したLPGAには、惜しみない賛辞が送られるべき。そしてPGAもLPGAを見習うべきだ。
米国ゴルフダイジェスト社提携
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