「全米プロ」を主催 PGAオブ・アメリカってなに?
「全米プロゴルフ選手権」はブルックス・ケプカの2連覇で幕を閉じた。昨年まではシーズン最後のメジャーとし、8月に開催されていたが、今年からは「マスターズ」(4月)と「全米オープン」(6月)に挟まれた5月開催。そのため練習日には冬のような寒さにも見舞われたが、おおむね成功に終わったといえる。
ところで、大会のメディアセンターの天井には毎年、今後の開催コースが写真入りで紹介されている。2020年はカリフォルニア州サンフランシスコのTPCハーディンパーク、21年はサウスカロライナ州キアワアイランドが舞台だ。
しかし、今年のメディアセンターには27年開催地がテキサス州の地図のみによって表示されていたのを発見した。これには少し訳がある。現在、大会を主催するPGAオブ・アメリカの本部はフロリダ州パームビーチガーデンにあるのだが、2022年を目処にテキサス州フリスコに移転する。担当者によると、本部がある現在の建物が手狭になってきたことなどを移転理由に挙げるが、詳しく聞けば、単にオフィスを引っ越しするということではないのだ。
「移転先に決まったフリスコの自治体やリゾートホテルグループ、投資会社などの共同事業で、2つのフルスペックコースやショートコース、練習施設や会議場などを建設する。20年間で総額2500億円規模という一大開発事業になる」と担当者。この引っ越し先に造成されるコースで27年の全米プロを開催することが先行決定しているため、まだ写真のないコースが天井に展示されていたのだ。
このような大きな事業の中心となるPGAオブ・アメリカという組織は、簡単に言えば「米国のプロゴルファーを統括」している組織だ。さらに平たく言えば「レッスンプロの集まり」と言えなくもないのだが、組織としての存在意義は多岐にわたる。
一般的にプロといえば、今回優勝したケプカなどのツアープロが思い浮かぶだろう。ただ、PGAオブ・アメリカに所属する2万9000人の会員のほとんどはクラブプロと呼ばれるゴルファーである。全米各地のコースで働くプロであり、彼らがプロと名乗っているのはPGAオブ・アメリカが提供する約2年間に及ぶプログラムを履修して得られる“資格”を保持しているからに他ならない。
そのプログラムには、PATという実技試験(約6500ydの設定のコースを2ラウンド、ハンディキャップ5以内でプレーするなど)をはじめ、クラブ経営やゴルフのルール、道具の扱い方などを教えるセミナーの受講やプロショップでの実習などがある。
すべての科目を履修すると、晴れて「PGAオブ・アメリカのプロ」の資格が与えられる。資格にもクラス分けがあるのだが、この資格を持っていれば地元のゴルフクラブやゴルフ関連企業へ就職しやすい、というわけだ。
近年はPGAオブ・アメリカの履修過程をそのまま提供する大学も米国内で20校ほど登場してきた。大学では主に経済学部の専攻過程の一つに組み込まれ、卒業すればPGAオブ・アメリカのプロという肩書きと同時に大学の修士号を得られるという点で学生に人気なのだ。
クラブプロの世界は地域分けされた地方組織があり、各地域で行われるクラブプロ選手権の開催もPGAオブ・アメリカのプロの活動の一つ。昨日、優勝したケプカにトロフィを手渡したのは、女性で初めて会長に選任されたスージー・ウェイリー氏。コネチカット州出身のクラブプロで、地域のクラブプロ選手権(男女混合)で優勝し2003年のPGAツアーに出場した。同年アニカ・ソレンスタムも男子ツアーに出場したため、ゴルフ界では大ニュースとなりウェイリー氏の出場はかすんでしまったが、先に男子ツアー出場を決めたのは実はウェイリー氏の方だった。
プロ世界一を決める全米プロゴルフ選手権は、ツアープロだけではなくクラブプロも参加する。今回予選通過した3人のクラブプロは表彰式に登場した。ロークラブプロのトロフィを持ち上げても、日本からの注目はほとんど無いと思うが、クラブプロの彼らへ憧れの視線を送る地元ゴルファーがいることも、伝えておきたい。(ゴルフカメラマン・田辺安啓)