ウィニングパットは“お先”で ケプカが憧れのウッズ&スコットを制す
◇メジャー最終戦◇全米プロゴルフ選手権 最終日(12日)◇ベルリーブCC(ミズーリ州)◇7316yd(パー70)
「全米オープン」を連覇してからわずか56日。ブルックス・ケプカが今度はワナメーカートロフィを空高く掲げた。12アンダーの単独首位から6バーディ、2ボギーの「66」をマークして通算16アンダー、大会最少ストロークの「264」を記録。2位のタイガー・ウッズには2打差をつけ、少年時代に憧れたアダム・スコット(オーストラリア)との最終組対決も制してメジャー通算3勝目を飾った。
ギャラリーの大半の声援は自分に向けられたものではないと考えていた。コースのあらゆるところで突発的に響く大歓声。それがひと際大きいときは「タイガーが何かやったな」と思った。4番からの2連続ボギーで後続に迫られ、8番(パー5)ではグリーン上で別のホールの声援が耳に届いた。「あの歓声が一番大きかったのを覚えている。どこか分からなかったけど、彼が9番でバーディを獲ったんじゃない?」。その通り。ウッズがスーパーリカバリーで1打差に迫ってきた時のことだった。
「コースにいる全員がタイガーを応援していると思っていた」。それも不思議ではなかったという。「それでイライラはしなかった。4番でミスパットをした時の方がフラストレーションがたまった」。28歳にとって、ウッズは尊敬の対象でしかない。
「僕のチーム以外はみんなタイガーを応援していたと思う。そうであるべきだ。ゴルフ界で史上最高の選手。その彼がカムバックしているんだから、本当にすごいことだ。(3週前の)全英オープンを見ただろう。(最終日に)ついに首位に立った時、観衆がどれだけ湧いたことか。彼が上がってきたとき、僕はテレビで観ていた子供の頃に戻ったような気分になった」。13歳だった2003年当時、「全英オープン」を観に行った。その時のウッズへの大声援を忘れることはない。
そうであっても、負けるわけにはいかなかった。目の前のスコットも、少年時代の憧れの選手だった。「プレーヤーズ選手権でアダムが勝った時(2004年)のことを覚えている。彼が池ポチャした時、僕も同じくらい動揺した。めちゃくちゃ応援していた。彼のスイングが大好きで、最高のスイングだと思ってきた。それに実際に会ってみたら本当にナイスガイで」
その憧れの人に13番で並ばれた直後、ケプカは真価を発揮した。15番、16番(パー3)とアイアンでショートサイドを攻め込み、3mを決めて2連続バーディを決めた。「重圧を浴びて打ったショットの中で最高の一打のひとつだ」と大いに胸を張った。ケプカの能力を試合前に感じていたのはウッズに他ならない。「ブルックスは340yd、350ydと飛ばすんだ」。開幕前日にふたりはジャスティン・トーマスらを交えて一緒に練習ラウンドを行っていた。「そんな選手が真っすぐ打って、パットが良い時に倒すのは難しい」とたたえられた。
ところで、ケプカは最終ホールで、15㎝ほどのウィニングパットを“お先”した。残した距離が短くとも、同伴競技者が先にホールアウトし、優勝者に最後に打たせる“儀式”は、ある理由で拒んだ。「彼(スコット)が重要なパットを残していたから。(スコットに先に打たせると)僕のボールマークが彼の視界に入ってしまう。邪魔したくなかった」
同一年度に「全米オープン」、「全米プロ」を制したのはジーン・サラゼン(1922年)、ベン・ホーガン(48年)、ジャック・ニクラス(80年)、そしてウッズ(2000年)以来史上5人目。快挙を遂げたのは、いつも穏やかで、控え目な男だった。(ミズーリ州セントルイス/桂川洋一)