ジミー・ウォーカー メジャー勝利で開けた12万円ワインの味
今季海外メジャー最終戦「全米プロゴルフ選手権」を制したのは、実年齢の37歳以上に渋い佇まいを漂わせるジミー・ウォーカー。2001年のプロ転向直後から将来を嘱望されていたが、開花には時間を要した。プロ16年目で果たしたメジャー初制覇の夜、苦労人のもとにはこれ以上ない至高の美酒が届けられた。
初日に首位発進を決め、そのまま逃げ切ったウォーカーの勝利。悪天候のため、第3ラウンドと最終ラウンドを一気にプレーした最終日、追われる身にとっては展開の読みにくいハードな一日だった。
「パーを重ね続けなければならないことは分かっていたが、それは時にきついことでもあった。最終ラウンドでボギーを打たずにきたのに、最終ホールで、起きてくれるなと祈っていた状況に陥った」
10mに3オンしてバーディパットを1mオーバー。しびれるパーパットを入れ、なんとか1打差で逃げ切った36ホール逃走劇だった。第3ラウンドの9ホール目からは、思い描いたプラン通り、28ホール連続でノーボギーだった。
地味な印象一色かもしれないが、若い頃にはスポットライトが当たりかけたこともある。2001年にプロ転向。25歳となった3年後の04年に、当時歴代2位の若さで、米国男子下部ツアーのプレーヤー・オブ・ザ・イヤー(最優秀選手賞)に輝いた。とりわけ今もなお健在の飛距離が注目を集めた。だが、勢いに乗って迎えたはずの05年に背中を痛め、出場はわずか9試合。07年には再び下部ツアーでプレーするなど、スポットライトとは縁のない選手生活となった。
転機となったのは、かつてタイガー・ウッズのコーチも務めたブッチ・ハーモンに師事するようになったこと。ウォーカーの実力を見抜いていたというハーモンに13年8月から指導を受け、その2カ月後の2013-14年の開幕戦「フライズドットコムオープン」で初優勝を挙げた。その時、ウォーカーは34歳。ツアー出場188試合目で果たした悲願だった。同シーズンは開幕から8試合で3勝という破竹の快進撃をみせ、ようやく世界にその名を轟かせた。
ウォーカーの才能を開花させたハーモンは、当初、レッスン料を拒んでいたという。そこで、ウォーカーは1200ドル(日本円で約12万円)する超高級フランスワイン「シャトーマルゴー」を買い求め、ハーモンの自宅へと送ってレッスン料代わりとした。ハーモンは「いつかメジャーで勝つことが出来たら、開けよう」と決めて、これを受け取った。
表彰式では、全米プロを制してワナメーカー・トロフィを掲げたウォーカーのもとに、ハーモンが歩み寄った。会場には、自宅のワインセラーに保管していた未開封のシャトーマルゴーを持参していた。世界一の勝利の美酒。その味は、2人にしか分からない。