2016年 WGCデルマッチプレー

母国で発生したテロ事件 ピータースは不屈の決意

2016/03/24 10:07
母国で起きた悲劇を胸に…。全身黒ずくめで戦ったトーマス・ピータース(David Cannon/Getty Images)

「WGCデルマッチプレー」の開幕前日、聞き慣れない名前の選手の記者会見に大勢の記者たちが詰め掛けた。トーマス・ピータース。今大会に唯一ベルギーから参加している選手だった。

その日の朝、ベルギーの首都ブリュッセルで起きたテロ事件について、欧州ツアーを主戦場とするピータースは沈痛な面持ちで語り始めた。「朝6時に起きると、電話がずっとブルブルと音を立てていた。みんな『家族は大丈夫か?』と聞いてきた。何かが起きたんだと思ってニュースサイトを見た。最悪の目覚めだった――」。

ブリュッセルから北に50キロほどのアントワープ出身のピータースは、遠征に行く際にはほぼ毎回、ブリュッセル空港を利用していたという。「ここ数年、飛行機に乗るのが怖いということはなかったけど、ときどき(テロのことが)頭をよぎったことはあった。でも、恐れとともに生きていくことはできない。それこそ彼ら(テロリスト)がやろうとしていることだ」。今回の事件が起きたからといって、自分の旅行や生活を変えるつもりはない、とピータースは続けた。

大会初日、多くの選手が黒いリボンの喪章をキャップにつけてコースへ出たが、ピータースは帽子からシャツ、ズボン、靴まで全身黒ずくめ。体全体で悲しみを表現しているかのようだった。

アダム・スコット(オーストラリア)との対戦では、2ダウンから16番、17番と連続して奪い、引き分けの0.5点を獲得した。ホールアウト直後にちらっと笑顔を浮かべたが、やはり母国での悲劇を意識していたという。

「ギャラリーが、我々のことを応援して叫んでくれたりすることに鳥肌が立った。もちろん、コースでもそのことを考えた。意識から除外することなんてできないよ。一生、そのことは影響すると思う」

だが、怒りや嘆きには流されないとピータースは言う。「(事件が)何も変えることはない。いつでもそうだけど、特に今週は」と、強い思いを口にした。(テキサス州オースティン/今岡涼太)

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