初優勝へ夢を繋ぐ 岩田寛の心模様
深い霧に包まれていたと思えば、気付けば明るい太陽がキラキラと輝いている。米国男子ツアー「AT&Tペブルビーチナショナルプロアマ」の3日目、スパイグラスヒルGCをラウンドした岩田寛は、めまぐるしく変わる天候をものともせず、この日も「69」とスコアを伸ばした。通算14アンダーとし、首位のフィル・ミケルソンを2打差で追う単独2位。あすの最終日は、最終組からツアー初優勝に挑む。
日本人による史上初の2週連続優勝も夢ではなくなった。前週の日曜日、練習ラウンドをしながら松山英樹のスコア速報にかじりついていたのは、ここスパイグラスヒルGC。それから一週間後、今度はその岩田自身がチャンスを掴んだ。
「あまり良いのはなかった」というショットだが、この日もパッティングが冴え渡った。きのうのペブルビーチGLでは23パットで、パットのスコア貢献率は全体1位の「4.923」。この日もわずか24パットで18ホールを回りきった。前半15番で8m、後半も3番10m、8番5mと、長いバーディパットを次々とカップに沈めた。
「きのうまではタッチが合っていると思ったけど、きょうの後半は合わなくなったから、どうですかね…」。グリーン上だけではない。岩田の歯切れが悪いのは、「悪い癖がまた出てきた」というショットの不安要素が頭を占めていることも関係しているようだ。
「なんかもう、ずっとショットのことを考えていたので…」。ラウンド後のインタビューでも心ここにあらずの状態で、質問を「え?」と聞き返すことがあったほどだ。
ときに、本気なのか、冗談なのか、見極めが難しい答えを返す。PGAツアーのスタッフが、3日目を上位で終えた岩田に「こういうタイプのコース、もしくはこういう芝が、君のショートゲームに好影響を与えているのか?」と質問した。「なんだろう…」と考えてから答えたのは「景色ですかね」。
ともかく、2014年の「WGC HSBC選手権」で3位タイに入ったのがPGAツアーでの最高位。15年の「全米プロ」でも2日目にメジャー最少スコアタイの「63」をマークした。そのおとなしい物腰の裏に、底知れぬ爆発力を秘めている。
現在、出場権を持たない次週の「ノーザントラストオープン」には、今週10位に入れば出場できる。「ノーザン―」明けの月曜日にはリシャッフル(出場優先順位を当該シーズンの成績順に並び替えること)も控えている。「これまでと変わらない1日を過ごすだけ」と特別な準備はしないが、大きなチャンスであることは分かっている。「僕はあまり考えていないですけど――」。“けど”の先までは言わなかったが、多くの期待を背負っていることは、重々承知しているはずだ。(カリフォルニア州モントレー/今岡涼太)