三田村昌鳳が語る・・・全米オープンとは?(1)
全米ゴルフ協会(USGA)が主催する「全米オープン」は、マスターズ、全英オープン、全米プロと並ぶ世界4大メジャー大会のひとつ。その中でも特に厳しいコースセッティングで知られ「世界NO1ゴルファー」を決めるにふさわしい舞台としてその名を轟かせる。第1回大会は1895年。以後、115年の時を経ても、その伝統と格式、そして「世界一」の称号を求めるゴルファーたちの挑戦欲は今も変わらない。世界最高レベルで繰り広げられる激闘の連続。その大いなる魅力を、ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏に語ってもらった。
”小数点”に迫る最高難度のコースセッティング
全米オープンは、世界最高最強を決める戦いだと言われる。だから、藤田寛之選手は「自分が世界でどの位置、どの順位にいるのかを確認できる大会だと思います。例えば、陸上競技会でタイムを競うのと同じで、世界で何番目なのかが判明してしまう大会」なのだという。
だからこそ全米オープンは、超最高難度のコースセッティングに仕上げなければいけない。それは選手たちを虐めるわけではない。むしろ選手たちの技量を、とことん厳密に、厳正に測るために、そういうフィールドづくりをしているのだと思う。例えば、100メートル走で、昔なら手動のストップウオッチで計測していた。それが写真判定が加わって、小数点以下の100分の1、1000分の1で計測できることによって、優劣の差を鮮明に出すことができる。
ゴルフゲームには、小数点がない。どんなに惜しいパーでも、パー4は、4であり惜しいパーだから3.9とか、バーディ逃しだから3.1とかスコアカードに書かない。それらはすべて4として表記される。もちろんボギーになりそうな危ない場面で、運よくパーを死守できたからといって「あなたは、パー4ではなく、ほんとうはパー4.9なんですよ」とは言わないし、そういう数値は切り捨てる。けれども主催する全米ゴルフ協会(USGA)は、なんとか小数点をコースセッティングで出したいと考えたわけである。
1992年、ペブルビーチの全米オープンで、こんなデータを取っていた。ラフに1回入るとスコアにどれだけ影響を及ぼすかというものだった。全選手のラフに入った回数とスコアを集計して割り出したもので、およそ0.25ストロークだった。2日目だったかジャンボ尾崎が、17番ホールを終えてラフに8回入っていながらスコアではボギーとせずにパーを死守していた。けれども18番ホールでティショットを左に曲げてダブルボギーを叩いた。こじつければ、これでデータとの帳尻があった、ということになる。
1打を、精緻に分別して実力を決めるために1打に表れない些細なミスの積み重ねを1打として具現させようとしている。だから選手たちは、ホールアウト直後、スコアにかかわらず、一瞬呆然とする時間を過ごす。全神経を解きほぐす時間が必要だからだ。そういう光景を、この全米オープンでよくみかける。
だからこそ、確かな順位をつけることができるのである。