ジュニアはプレーフィ無料? フランス育ちの日本人キャディにゴルフ事情を聞いてみた
26日にフランス・パリで開幕した第33回オリンピック。8月1日から男子ゴルフ、7日からは女子ゴルフがそれぞれ4日間の日程で行われる。舞台となるパリは1900年に初めて五輪ゴルフ競技が実施された地でもある。なかなか知らない現地のリアルなゴルフ事情を、20歳までフランスで生活していたプロキャディの神田七保海(かんだ・なおみ)さんに聞いてみた。
日本人の両親を持つ神田さんはフランス・シャモニーで生まれた。山に囲まれ、「1年の半分以上は雪が降っている」という故郷では、1924年に第1回の冬季オリンピックが開催されている。体育の授業にも取り入れられているスキーには幼少期から当たり前のように親しみ、夏のスポーツとしてロッククライミング、6歳ごろからゴルフも始めた。
余暇を楽しむ=スポーツという土地柄で最もハマったのがゴルフ。古江彩佳がメジャー初優勝を遂げた「アムンディ エビアン選手権」の会場エビアンリゾートGCは実家から車で1時間ほどの距離にあり、何度もプレーしていたとか。今回のオリンピックの舞台となるル・ゴルフ・ナショナルも「フランスアマ」で回った経験がある。
DPワールドツアー(欧州ツアー)でシード選手としてプレーしているアドリアン・サディアは学生時代からの友人。「東京五輪」にフランス代表として出場したアントワン・ロズナーも昔からよく知っているそうだ。
高校までフランスでゴルフの腕を磨いた経験をもとに「フランスのジュニアって、基本的にお金がかからないんです」と話す。もちろんクラブをそろえる用具代は必要で、年間のライセンス料といった細かな出費も発生するが、練習場での打ち込み、コースでのプレーフィは基本的に無料。日本に比べたらゴルフ場の数は少ないものの、練習環境は非常に充実している。こういった事例はゴルフに限ったことではなく、スポーツ省がジュニア世代の環境づくりに大きな予算を割いてバックアップしている結果なのだという。
国がスポーツ全般への支援を惜しまない分、老若男女の興味もいろんな競技に分散しがち。「その中で言うと、ゴルフの“順位”はまだですね…」。胸を張って絶大な人気を誇るとは言えないと苦笑する。
昨年、久常涼が制した「カズーオープンdeフランス」は1906年に創設され、欧州大陸では最古のナショナルオープンだ。ゴルフ自体はなじみのあるスポーツなのだが、「フランス人の性格もあると思うんですけど、アマチュアの方でもトーナメントやプロのプレーを見にいくというよりも、自分がプレーしたい気持ちが強いんです」とも。
ただ、ル・ゴルフ・ナショナルで行われた2018年の欧米対抗戦「ライダーカップ」は入場者数が27万人に達するなど熱狂的な人気を博した。1月「ファーマーズインシュランスオープン」では、マチュー・パボンが第二次世界大戦以降でフランス勢初となるPGAツアー優勝を達成してパリ五輪にも出場する。
「『フランス人が世界的なフィールドで戦っているんだ』ということは、もともとゴルフに関心がなかった国民にも少しずつ知れ渡ってきたと思います」。全32競技329種目が実施されるオリンピックにおいて「ゴルフは若干マイナー感もあると思いますけど…」と笑いつつ、一大イベントの盛り上がりに期待を寄せた。
□神田七保海(かんだ・なおみ)
1991年、フランス・シャモニー生まれ。6歳からゴルフを始め、高校までフランスで過ごした後に両親のルーツである日本に進路を定めて東北福祉大へ。卒業後はスポーツマネジメント会社に就職する傍ら、同大出身で同い年の富村真治が2015年「全英オープン」に出場した際のキャディを頼まれたことがきっかけでツアーの世界に飛び込んだ。谷原秀人の欧州ツアー時代もバッグを担ぎ、23年からは比嘉一貴のエースキャディを務める。