2021年 バミューダ選手権

「永遠に忘れない」末期がんのプロゴルファーが刻んだ通算39オーバー

2021/10/30 13:04
54歳のブライアン・モリス。地元のバミューダで生き様を刻んだ(Cliff Hawkins/Getty Images)

◇米国男子◇バミューダ選手権 2日目(29日)◇ポートロイヤルGC (バミューダ諸島)◇6828yd(パー71)

この日9つ目のボギーを記録した最終ホールは歓声でいっぱいになった。ダブルボギーは3つ、トリプルボギーも2つたたいた。バーディはなく、刻まれたスコアは「92」。初日の「89」と合わせて通算39オーバーは断トツの最下位で、予選落ちだった。それが何だと言うのだ。同じ組でプレーしていたサヒス・ティーガラは声を震わせた。「この瞬間を忘れない。人生にゴルフが占めるのはわずかでしかないんだ」

54歳のブライアン・モリスは、美しい海に囲まれた英国領・バミューダ諸島にあるゴルフ場のヘッドプロ。新型コロナ禍の渡航問題により、待機選手を繰り上げても予定の出場選手数に満たなかった今大会の直前に、急きょ推薦出場が決まった。

「ずっと思い描いていた。ずっと夢に思っていた」という、齢50を超えてのPGAツアーデビューを果たしたモリスは2年前、悪性脳腫瘍と宣告された。頭蓋骨から腫瘍を摘出したが、がんはすでに胃や食道などに転移し、悪性度は最も高いステージIV。米国ボストンの病院で化学療法を受けている末期がん患者でもある。

ビッグマネーや職場を奪い合うプロゴルフの世界で、彼は自分にとってのゴルフを「静けさのようなもの」と語る。「プレーしている時間だけは病のことを考えなくて済む。ショットを打って、パットをして。(1ラウンドの)4時間半の間は医者、病院を往復する日々から解放されるから」

自分が出場することで、誰かと思いを共有できればそれで良かった。36ホールを回り終えて破顔し、目を押さえた指が涙で湿る。「PGAツアーに出場した名前が刻まれる。家族や友人にも会えた。もう会えるかも分からないみんなに」。週明け月曜日には、32回目の化学療法を受ける。いま胸にあるのは「できるだけ長く生きたい」という思いだけだ。

人生の困難にある人々へのメッセージを求められ、モリスは「とにかく、あきらめないでほしい。こんなふうに悪いことが起こったとき、自分がどれだけの人に愛されているか分かるはずです。何かの偶然で同じ場所、同じ時間にいる人たちとの出会いは特別なこと」と訴えた。「1番ホールからずっと楽しかった。初めて触れたツアーや大会で働く素晴らしい人々、みんなが本当に親切にしてくれた。永遠に忘れない」

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