2019年 AIG全英女子オープン

“世界のシブコ”へ残り18ホール 奪首の渋野日向子は少年にグローブ

2019/08/04 07:15
トップに立っても変わらぬ笑みがある

◇海外女子メジャー◇AIG全英女子オープン 3日目(3日)◇ウォーバーンGC(イングランド)◇6585yd(パー72)

渋野日向子が驚異的な巻き返しで、42年ぶりの日本人メジャー優勝へ単独首位に立った。3打差の2位から「67」で回り、2位に2打差をつける通算14アンダー。前半に停滞し一時トップと6打差ついたが、後半に6バーディを奪って逆転した。笑みを絶やさない20歳は観客を虜(とりこ)にしながら、1977年「全米女子プロゴルフ選手権」を制した樋口久子以来2人目の快挙に迫った。

そこにいた誰もが、彼女を知らなかった観客が、その人柄に魅了された―。単独首位に躍り出た17番(パー3)のバーディ直後、最終18番ティへの上り坂で7歳の少年がロープ内に飛び出てきた。「Glove」。か細い声に反応した。「だって、放っておけないですよ」。その場で外したグローブにサインを書き、手渡した。しゃがんで記念撮影に収まる。稀に見る光景に、ギャラリーは温かな拍手を送り続けた。

ファンに囲まれる渋野日向子

メジャー初出場で最終組。本音は「結構しんどかった」。終盤にかけて一気に増えた観客たちが、渋野の粘りを物語る。9番で3パットボギーを喫し、単独首位で出たアシュリー・ブハイ(南アフリカ)とは6打差に開いた。「3パットは一番嫌い。へたくそって、ブチって切れちゃって…」。一度、トイレで怒りを沈めた。「すごく悔しかったけど、後半がある。ピンを狙わず、逃げてボギーをたたくのは、本当に悔しい」。目の色が変わった。

3mを決めた10番(パー5)でバウンスバックすると、打ち下ろしの14番(パー3)は4UTで下りの5mにつけてジャストタッチで沈め、15番(パー5)で2連続バーディを奪った。パーとした16番で、ボギーをたたいたブハイの背中をとらえ、1.5mにからめた18番でもバーディ。後半「30」(パー36)に「正直、ここまで伸びるとは思っていなかった。終わってから、緊張しちゃっていますよ」と目を見開いた。

ラウンド後は英BBCなどの取材を立て続けに受け、公式会見にも呼ばれた。「本当は静かに予選を通って、静かに帰る予定だったんですけどね…」。状況を飲み込み切れない姿に、海外記者たちがほほ笑んだ。日本人のメジャー優勝者は樋口だけと伝えられ「え…そんな…。やばすぎますよね」。苦笑いで動揺した。

メジャー初制覇へ王手をかけた渋野日向子

メジャー昇格前の1984年、岡本綾子が今年と同じコースで「全英女子」を制した。憧れの宮里藍さんからは前日、インスタグラムでエールをもらった。本格参戦1年目の国内ツアーで今季2勝を挙げ、初参戦の海外メジャーで活躍。「きょうが日曜日であれ、って感じ。本当は静かに生きていきたかったんですけど…。でも少し目立っちゃう。宮里藍さんのようにはなれないかもしれないけど、(ゴルフ界を)引っ張っていけるような存在にはなってみたいな、とはちょっと思います」。照れながら、そう言った。

幾多もの先輩プロが、夢破れたメジャーの制覇。「緊張すると思いますよ。でも攻めていければ、もしかしたらですけど、優勝できるかもしれない」。誰もいない練習グリーンでは、キャディを務める青木翔コーチらと普段と変わらぬドリルを行った。最後の練習パットを決め「イエーイ。終わりでーす」と両手を上げた。「あした、また頑張りまーす」。世界のシブコになれ。(イングランド・ウォーバーン/林洋平)

2019年 AIG全英女子オープン