<ジャンボと佐野木の名コンビ・・・昔のプロは感性で勝負をしていた>
ヤーデージブックは、トーナメントを戦うプロにとって今や欠かせない武器のひとつなっている。ヤーデージブックとピンシートを見ながら、次のショットをどうするべきか、プロとキャディが作戦を練るシーンは、トーナメントではお馴染みの場面でもある。
そのホールにある、いわばランドマーク的な樹木の位置やバンカーの位置など、さらにフェアウェイに点在するスプリンクラーヘッドの位置を、ヤーデージブックやピンシートと突き合わせて、ピンまでの距離を1ヤード単位で計算する。それに風向きやコースのアップダウンを足し引きし、さらにハザードやマウンドのリスクを加味して持つクラブや球筋を決める。
「でもさあ、感性で反応するのがゴルフの面白いところなんだけどなぁ」とちょっと寂しそうな顏を見せるのは、長年ジャンボ尾崎とタッグを組み、今や伝説のキャディと呼ばれる存在になった佐野木計至さんだ。
佐野木さんがジャンボのバッグを初めて担いだのは1977年の広島オープン。デビュー戦でいきなり優勝だ。
「僕がジャンボと組んで八本松コース(広島CC)で初めて優勝したときは、ヤーデージブックとかピンシートもなかったですよ。頼りになるのは、50ヤード、100ヤード、150ヤード、ロングでは200ヤードに植えてある柘植とか椿の目印。センターまでの距離表示なんだけど、ピンシートもないから、遠くから目を凝らしてピンを見て、『奥目かな』とか『手前だな』なんて、見た目で判断するんです」と佐野木さんは往時を懐かしむ。
それは、ほとんど一般アマのラウンドと変わらなかったそうだ。
やがて佐野木さんもラウンドメモを作るようになるのだが、GPSやレーザー距離計などない時代。そのメモの基礎になるのは、1歩1ヤードの正確な歩測。佐野木さんは、その歩測に絶対的な自信を持っていた。
今は開催されていないトーナメント、ジュンクラシックのときだった。会場には巨大な練習グリーンがあり、その端から端まで何ヤードだろうと言う話になったそうだ。さっそく佐野木さんが歩測したところ103歩。当時一部のプロが練習ラウンドで使うようになっていた、車輪式距離測定器を転がしてみると、ぴったり103ヤードだったのだ。
ジャンボとの駆け引きも面白かったと佐野木さんは言う。「わざとカマすんですよ。ピンまで100ヤードで、エッジまで95ヤード。でも手前にバンカーがあると、目玉にでもなったら大変やから、『107ヤード』なんて言うんです」。これが佐野木さんの言う「カマす」だ。
「けど、ジャンボもどうやら、それが分かっているらしくて、こっちを見て、ニヤっと笑うんやね」。もちろん結果はぴたりピンそばだ。これぞ名コンビ。こうしてジャンボと佐野木の最強コンビ伝説は作られて行った。
「昔のプロはね、今のプロより感性が鋭かったですよ。個性があったから面白かった。機械やデータに頼るってどうなのかな?」と佐野木さんは言う。「今のプロは出世のレールに乗ったサラリーマンみたいで、野望がないような気がする」。さて皆さんは、この佐野木さんの言葉をどう受け止めるのだろうか。