<選手会長になるべくして生まれてきた男!? 宮本勝昌の適任ぶりとは>
選手会長の仕事は、全選手の意見をとりまとめたり、スポンサーと直接、折衝にあたったりと数々あるが、その中でももっとも大事な役割に「広報活動」があると思う。
それを鑑みても、今季の選手会長はまさに適任だと感じたのが、2週前の「TOSHIN GOLF TOURNAMENT IN LakeWood」だ。最終日はコース新の62をマークして、その時点で首位と1打差。通常ならば、プレーオフも視野に入れて、さっそく練習場に向かったり、多少なりともナーバスになる場面である。選手によっては、まだ決まらないうちに取材に応じることすら嫌う場合も多いが、宮本は「ああ、全然いいですよ。やっちゃいましょう」。
そして報道陣に向かって主催者や、大会への思いをこの日のプレーに絡めて、これまた巧みな話術で語りきった。ハイスコアの戦いにこれまでの経験から、本人はこの時点で2人タイの首位に1打差では自分に勝ち目はない、という見通しがあったのだとは思う。ひとしきり、語り終えるとさっさと私服に着替えてすっかり帰り支度を整えてロッカールームから出てきた。
そのままコースを去らんばかりの勢いに、さすがに周囲に止められてひとまずクラブハウスに留まったが、そのあとの行動も、他の選手にはありえないものだった。
なんと宮本は、報道陣が集まるメディアルームにやってきたのである。確かに、そこにはスコア速報が一目瞭然だし、テレビのモニターもある。それでも、これから再び優勝争いに加わるかもしれないという可能性を残した選手が、万一プレーオフまでの待機場所としてそこを選ぶのは、なかなかないことである。
まして、余裕しゃくしゃくで最前列の席に陣取ったばかりか、「お腹がすいちゃった」と、スタッフからお裾分けしてもらったお弁当を広げて、むしゃむしゃと美味しそうに食べ始めた。
さらに気持ち良く箸を進めながら、テレビ画面を食い入るように見つめて優勝争いの実況中継を始めたのである。
たとえば土壇場の17番で、首位タイで並んでいた津曲泰弦(つまがりたいげん)がティショットのミスからボギーを打ったシーンだ。続いて長いバーディトライを打ったドンファンが、ずいぶんとショートして微妙な距離を残した。「うう~ん、相手がボギーを打ったことでパーでいいと思っちゃったんだね~。それでかえってあんなに残しちゃったんだ・・・」。と、訳知り顔で解説したしりから、シャツの裾に手をかけて、今にもゴルフウェアに再び着替え直さんとするポーズ。「ある? ある?」と、自らのプレーオフ進出の可能性を期待するようなしぐさで、居合わせた報道陣を笑わせた。
だがドンファンが、最終ホールの第2打をグリーンそばのラフまで運んだ地点で、さすがにギブアップ。そのころには弁当箱もすっかりカラにして、「じゃあ、改めて帰ります」と飄々と選手会長は席を立つと、居合わせた報道陣は、「いやあ、楽しませてもらった」「ほんっと宮本選手は面白い」「優勝争いの選手がプレスルームに来るなんて、ありえないよね」と、堪能しきった様子だった。
これでもし、本当にプレーオフになっていても、即座に切り替え宮本は再び試合に集中して全力で戦っていただろう。ゴルフと本業をきっちりと分けて、それを成績の言い訳にしたり、絶対に一緒くたにしない点でもまさに適任といっていい。2006年から始まった142試合連続出場(ANAオープン終了時点)の“鉄人記録”も更新中。シーズン後半も、選手会長がどんなパフォーマンスで楽しませてくれるか。