ツアープレーヤーたちの父と母<ボランティアの柴田夫妻>
ジャパンゴルフツアーには、“お父さん”“お母さん”と呼ばれ、親しまれている人たちがいる。ボランティア暦15年になる柴田英雄さん、淳子さん夫妻だ。
朝はスタートホールを担当されて、「行ってらっしゃい!」と明るい声で送り出す。午後からは、スコア提出場。「お帰り」と、優しい声でねぎらう。いつも朗らかなその様子に、癒される選手も多い。献身的な働きぶりには、信頼も厚い。
川岸良兼は、柴田さんが初めてツアーのボランティアに参加した98年からの付き合いだ。折々には連絡を取り合い、親睦を深めている。女子プロの宮里藍選手も、夫婦揃って素朴なお人柄を気に入って、「柴田さんが大スキ~」と関係者に話していたという。いまやメジャーチャンピオンにまで登りつめたトッド・ハミルトンも、柴田夫妻を慕う“息子”のひとりだった。
ジャパンゴルフツアーで活躍していたころは、優勝すれば真っ先に2人のもとに駆けつけて日ごろの感謝の気持ちを伝え、スランプに陥ったときは子供のように心情を吐き出すなど、日本での心の拠り所としていた。「僕の日本のパパとママ」と言ってはばらかず、「彼らが僕を育ててくれた」と、語っていたものだ。
全英オープンで優勝した2004年、11月のダンロップフェニックスで凱旋帰国をした。
そのとき、ハミルトンが柴田夫妻のためにはるばる持ち帰ったのが、会場だったロイヤルトルーンの18番グリーンのピンフラッグ。もちろん、自身のサイン入りだった。「僕からのお土産だよ」と何気なく差し出された貴重な記念品に、妻の淳子さんはびっくりしたという。目を丸くしながら「トッド、そんな大事なもんホンマにもらってもええのん?」と尋ねた途端に、胸が熱くなったと振り返る。「あのトッドがこんなに立派になったかと思うと、ほ~んとに嬉しくてねえ・・・」思わず涙がこぼれ落ちそうになったという。
ボランティアの仕事を通じて、選手との心温まる交流を続けている柴田夫妻だが、実はこのオフ、夫の英雄さんが病いに倒れられ、現在入院中だ。 これに胸を痛めた川岸は、先日行われたボランティア有志の会主催のチャリティゴルフ大会の会場で、ホールアウトするなり来ていたセーターを脱ぎ去った。
「“お父さん”へのお土産に・・・」。
淳子さんにそう言い置いて、帰っていった。
他の参加していた選手たちもみな英雄さんの病状を心配していて、「開幕には必ずまたお母さんと一緒に会場に来て、とお父さんに伝えて」と言って、淳子さんの手を握り締めたりしていたものだ。
川岸から受け取ったピンクのセーターを胸にしっかりと抱いて、「みんな、本当にいい子たちばっかりで。こちらが元気づけられます」と、しみじみと話されていた淳子さん(=写真)。「お父さんには早く病気を治してもらって、今年も元気にボランティアに参加します!」。
柴田夫妻をはじめとする、“善意の力”に支えられている男子ツアー。
今年もたくさんの方々のご支援を受けて、まもなく開幕を迎えます。