ツアープレーヤーたちのオフ<中嶋常幸>
倉本昌弘は、50歳の誕生日を機に旅立った。まだ49歳の尾崎直道も、昨年のうちにQスクールに挑戦し、出場資格はすでに入手済み。5月に誕生日を迎えるや、すぐにも米シニアのチャンピオンズツアーに参戦できるよう準備万端、整えている。
そのほか飯合肇や尾崎健夫など、日本ツアーで一時代を築いたトッププレーヤーたちがこぞって予選会に挑むなど、シニア入りと同時にアメリカを目指す選手が多いなか、中嶋常幸はきっぱりとこう言いきるのである。
「僕はこれからも基盤を日本に置いておきたい。アメリカはメジャー級の試合だけにとどめて、あとは日本でやりたいと思ってるんだ」
海外が嫌いなわけではない。かつて、メジャーで優勝争いを繰り広げた経験もある。不運な思い出とはいえ、セントアンドリュースの17番パー4にあるポットバンカーは、やはり3日目まで優勝争いを繰り広げていた78年大会での大叩きから“トミーズバンカー”と名づけられ、名物になっているほどだ。
いまの米シニアには、ちょうどこの頃しのぎを削っていた“戦友”たちもたくさんいる。今でも彼らに引けを取らず、十分に戦えるだろう。それでも、中嶋があえて日本にとどまったのは他でもない。あるひとりの“女性”のためだった。律子さんという良妻がありながら、「“彼女”を残して、アメリカなんか行けないよ~」と、臆面もなく中嶋は言ってのけるのだ。
シーズン中もホールアウトするやいなや、真っ先に彼女のもとへ駆けつける。抱きかかえ、頬ずりし、キスを浴びせる。パッティンググリーンでも、彼女の名を連呼しながら練習。「そしたらね、不思議と入っちゃうんだな、これが」などと言いだす始末・・・。
と、まあ、随分おもわせぶりな言い方をしてしまったが、中嶋の意中の女性とはお察しのとおり、初孫の愛ちゃんだ。すっかり好々爺の中嶋にとって、いまは愛ちゃんの存在がすべて。彼女にすっかり骨抜きにされてしまっているようなのだ。
孫がいちばん可愛い時期に、出来るだけそばにいたい・・・。そんなささやかな望みを貫く一方で、日本のレギュラーツアーでの戦いにも闘志を燃やす。オフトレーニングに、今年は水中ウォーキングを取り入れた。「脂肪燃焼の効率が高く、体にほとんど負担もかからずに関節が柔らかくなる」と毎日のようにプールに通っているという中嶋。
「今年は、若い子たちをギャフンと言わせたい。まだまだ、現役で頑張るよ!」
“おじいちゃん”とは名ばかりの、トミーこと中嶋常幸がその目をギラつかせている。