韓国の新星は元パラシュート部隊「訓練に比べたらゴルフは」
韓国軍隊のエリートが集う“元空挺兵”が、日本のツアーデビュー戦で初優勝を成し遂げた。「関西オープンゴルフ選手権競技」最終日を3位タイから出たチョ・ビョンミン(韓国)が3バーディ、2ボギー「70」でプレー。5打差を逆転する通算6アンダーとし、2007年「マンシングウェアオープンKSBカップ」を当時15歳で制した石川遼以来となるツアー初出場・初優勝を達成した。
韓国の成人男性に2年間にわたり課される兵役義務。プロ転向から2年後の2012年1月、チョは身体検査で優れた者しか入隊できず、軍隊の中でも過酷な訓練が待つ『特殊部隊』に自ら志願し、高所からパラシュートで降下する空挺兵に属していた。上空約1200mから飛び降りる訓練経験は、入隊中約25回を数え、「とても勇気がいることでした」と当時を回顧。ゴルフクラブなど握ることも許されず、毎日のように本格的な訓練で体を鍛え続ける日々を過ごした。
アマチュア時代にはナショナルチームにも属していたチョなら、もっと優遇される部隊を選ぶ道もあったはずだが、当時は韓国ツアーで成績が残せず、「ゴルフを辞めたくて、すべてを諦めるつもりだった」。なかば、自暴自棄ともいえる心境で過酷な舞台に飛び込んだという。
しかし、そんな厳しい日常がかつてのゴルフへの挫折感を溶かしていった。「こんな過酷な訓練に比べたら、ゴルフの方がずっとラク」。何よりも、しばらくゴルフから離れたことで「またゴルフをしたくなった」とプレーへの意欲が日に日に増していった。除隊後は再びクラブを手にし、韓国ツアーに復帰。より試合数が多い日本ツアーへの挑戦を決め、昨年末のファイナルQTを25位で通過して今季ツアー出場権を手にし、この日の栄冠をつかみとった。
ゴルフを諦めるための決断が、結果的に情熱を再燃させた奇想天外なストーリー。軍隊での経験について問われ、26歳はヒゲを蓄えた精悍な顔を笑顔に変えた。「いま思えば、軍隊では良い時間を過ごせたと思います。ただ、もう2度と行きたくはないですけどね」。(和歌山県橋本市/塚田達也)