海外へ挑み続ける“元賞金王” 比嘉一貴「やっとゴルフが楽しくなってきた」
◇国内男子◇東建ホームメイトカップ 事前(27日)◇東建多度カントリークラブ・名古屋(三重)◇7069yd(パー71)
開幕前日のプロアマ戦でカメラを向けられると、比嘉一貴はニヤリとした。「“向こう”では撮られることなんてないですから」。神田七保海キャディに声をかけ、2人でポーズを決める。この1年、日本ツアーの賞金王として海外を渡り歩いた経験を冗談めかした言葉に詰め込んでサービス精神たっぷりに笑った。
DPワールドツアー(欧州男子ツアー)でのシード獲得に失敗した昨季を終えても、行動は素早かった。終了翌週、11月のうちに始まる新シーズン序盤戦でフィールド入りの機会を貪欲にうかがってオーストラリア2連戦へ。12月はモーリシャスにも飛んだ。
モーリシャスの直前にはアラブ首長国連邦(UAE)でLIVゴルフの予選会にも出場。「もちろん賞金額もすごいけど、環境というか、周りがほぼメジャーチャンピオンというPGAツアーにも負けないメンツとプレーできる。同じフィールドで1年間戦えるというのは、僕自身が欧州で1年間やって感じた以上のものがあると思ったんです」。香妻陣一朗のようにシード獲得には届かなかったが、成長のためにあらゆるチャンスを探った。
ちょうど1年前は、初めての「マスターズ」出場を目前に控えてPGAツアーにスポット参戦していたタイミング。オーガスタで高い壁に跳ね返され、その後の欧州ツアーで予選通過もままならない時期を過ごした。「周りに負けないようにって、できないことを求めてしまったというか。できることとできないことの区別がつかず、自分のゴルフに徹することができなかったのが一番大きい」
抵抗の強いラフはもちろん、芝質の違いにも苦しめられた。「日本の芝だったら、10球打っても同じようなところに10球落とせる。向こうだと、ちょっとのインパクトミスでキャリーが全然変わったりする」。それでも少しずつリズムをつかみ、9月「カズーオープンdeフランス」は1打差3位で最終日に入って6位フィニッシュ。久常涼の優勝の裏でひそかな手応えを感じてもいた。
だからこそ、昨年より優先順位が低い出場カテゴリーでも挑戦をやめたくない。「日本で上に行くゴルフと、向こうで求められるゴルフはまた違うなと思った。戻ってきて、(日本ツアーで資格を得るまで)間を空けてまた行くのでは、ゼロからのスタートになるともったいない。やっぱり出続けること」とうなずく。
2024年に入ってから出場できた欧州ツアーはケニアでの1試合だけ。甘くない現実を受け止めた上で「どれかひとつでもチャンスをつかめれば来年につながると思って、どこにでも行く覚悟。行ったり来たりも多くなって、その分だけ経費もかかるかもしれないけど、今しかできないと思って頑張ります」と気持ちを奮い立たせる。
マスターズに向けて準備を重ねていた時も充実していたが、また違った感情が芽生えているという。「やっと楽しくなってきましたね、自分の中で。今までうまく行き過ぎていたのか、ここ(日本)でやっていて、できた気になっていたというか。苦い経験があったけど、必ずしもムダではなかった」。158㎝の小さな体に秘める志は、以前にも増して大きくなった。(三重県桑名市/亀山泰宏)